2017年度京都大学個別試験 分析速報

■分量と難度の変化(地歴…時間:90分) 
・大問I・IIIは300字論述(各20点),大問II・IVは長文下線部・空欄補充(各30点)の大問4題構成。
・90分という制限時間に比してかなり問題量が多いのが特徴である。大問II・IVでそれぞれ30問程度の小問が課される上に,大問I・IIIで300字の論述問題が課されるため,時間配分が重要となる。
・全体的な難易度は例年並みである。
■今年度入試の特記事項 
・例年同様,大問I・IIがアジア史中心,大問III・IVが欧米史中心の出題であった。
・近年は大問IVでのみ出題されていた小論述が大問IIでも出題され,2016年度よりも小論述の出題数が増加した。
・大問IVは従来の中問3題(A・B・C)から中問2題(A・B)に構成が変わったが,大問全体の小問数は例年通りであった。
■合否の分かれ目 
・大問I・IIIの論述問題は,北方民族史・戦後史といずれも学習が手薄になりやすい範囲からの出題であり,教科書の全範囲について隅々まで学習できていたかで解答の出来に差がついただろう。また,問題の要求を捉える読解力と趣旨の明確な解答に仕上げるための表現力は必須である。
・2017年度は小論述の出題数が増加したため,大問II・IVをいかに手早く処理できたかが例年以上に重要であった。
■大問別ポイント
 大問 I 

・前3世紀から後4世紀初頭に至る匈奴の歴史についての論述問題であった。
・問題の要求はシンプルで,解答の筋道は立てやすい。年代の指定に注意して,論述の書き出しと末尾に当たる事項を見極められたかがポイントであった。
・匈奴を含む北方民族史は学習が手薄になりやすいため,詳細かつ正確な知識を押さえられていたかで差がついただろう。
・中国王朝ではなく匈奴を中心とした論述となるよう,解答中の表現には気をつけたい。
 大問II 
・Aは梁啓超が提唱した“新史学”を,Bはエジプトにおけるキリスト教徒の歴史をテーマにしたリード文からの出題であった。
・大問IIとしては珍しく,問⑴,問⑸,問⑽で小論述が出題され,とまどった受験生も多かっただろう。問⑽は書くべき事項を想起しづらく,やや難度が高かった。
・問⒀,問⒅は細かい知識が求められたが,それ以外は概ね基本的な知識で解答できただろう。
 大問III 
・1980年代のソ連・東欧諸国・中国・ベトナムにおける経済体制および政治体制の動向の類似点・相違点を考察する論述問題であった。学習が及びにくい戦後史について論じなければならず,正確な知識が求められた。
・論じるべき地域が多く,具体例を列挙するとすぐに字数が足りなくなってしまうため,問題の要求に応じて的確に事項を取捨選択したい。
・単に各地域の経済体制・政治体制の動向をまとめるだけでなく,地域間の類似点・相違点が明確になるよう解答をまとめる文章力が必要である。
 大問IV 
・Aは古代〜中世ヨーロッパにおける集団の移動を,Bは16世紀以降のバルト海周辺地域史をテーマにしたリード文からの出題であった。
・問⑺,問⑻,問⑾,問⑿,問⒂の小論述はいずれもオーソドックスな事項説明の問題であったため,手早く処理したい。
・空欄dはかなり細かい知識が求められており,難度が高い。そのほか,リード文の読み込みが必要な問題が散見されたものの,概ね基本的な事項からの出題であり失点は最小限に抑えたい。

京大世界史攻略のためのアドバイス

京大世界史を攻略するには、次の3つの要素を満たす必要がある。
●要求1● 教科書全範囲の基礎的知識を網羅する「知識力」
  まずは,「知識力」の養成を。遅くとも受験生の夏休み終了までには,全時代の概略と,教科書の太字語句の意味を押さえることを目標にしよう。語句はただ覚えただけでは力にならない。既習範囲は問題演習を行い,自分が理解したはずの知識が,本当に得点につながる力になり得ているかを,確認しながら学習を進めよう。並行して論述問題にも取り組み,「知識を文章でまとめる」ことにも慣れていきたい。
●要求2● 問題の要求を的確に捉える「読解力」
  京大世界史攻略のためには,上述のように,知識力の養成と並行して既習範囲については論述問題にも取り組み,本番まで定期的に問題演習を行う習慣をつけてほしい。問題の要求を的確に捉える「読解力」を身につけるためには,問題文を丁寧に読むことが重要である。何となく知っていることを羅列するのではなく,問題文中の時代・地域の指定,「意義」「背景」「経緯」「変化」「特徴」などといった問いかけに対して,最も適した解答が提示できているか,常に意識しながら解答を作成しよう。復習時に自分の解答作成の過程を確認するために,草稿メモをノートに記録しておくことも有効である。
●要求3● 短い時間の中で最大限の結果を出す「処理力」
  時間に比して分量の多い京大世界史で確実に得点するためには,時間の使い方も重要である。模試を受験する際に,問題に取り組む順番を工夫したり,既習範囲の出題ではより高得点を獲得するべくとくに注力して解いたりするなど,限られた時間内で最大限の成果に結びつける訓練を積むとよい。センター試験終了後は,京大入試と同じ分量・構成の問題セットを時間を計って解き,「知識力」・「読解力」を土台とした表現力に磨きをかけつつ,本番での時間配分を想定して,「処理力」を鍛えていこう。
▼「京大コース」世界史担当者からのメッセージ
・大問Iでは,匈奴の歴史について出題されました。学習が手薄になりやすい範囲ですが,中国史と併せて教科書レベルの知識は確実に身につけておきたいところです。2016年度の本科「京大世界史」実戦トレーニング期の3月号では,秦と漢の対外政策をまとめており,匈奴との関係についても扱っていたため,こちらに取り組んでいたZ会員は書くべき事項を想起しやすかったでしょう。
・大問IIIの論述問題は戦後史からの出題でした。近年の京大世界史では,論述問題や小論述でも戦後史からの出題が見られるようになってきています。学習が及びにくい範囲ですが決して疎かにせず,各事項の詳細や意義まで押さえるように学習してほしいと思います。2016年度の本科「京大世界史」直前演習期では,1960年代半ば〜1980年代のベトナムについて300字で論じる論述問題を出題していました。大問IIIのなかでもとくに知識が不足しがちなベトナムですが,事前にこの問題を解いていた方は解答に必要な要素を想起することができたかと思います。
・2017年度は大問IIでも小論述が出題され,小論述の出題数が多かったことに焦りを感じた方もいたのではないでしょうか。大問I・IIIの論述問題に多くの時間を確保するためにも,大問II・IVはできる限り手早く処理したいところです。300字論述の対策に加えて,短時間で小論述をまとめる練習も積んでおきたいですね。なお,大問IV―問⑾は,2016年度の京大世界史入試で単答形式で出題された宗教騎士団に関する小論述でした。2016年度の特講「過去問添削 京大世界史」で解説まで読み込んでいた方は,確実に得点できたことでしょう。
・大問II・IVの単答問題では細かい知識を問う問題が散見され,教科書の範囲を越えた問題も見られました。そういった問題は多くの受験生が失点する“差がつきにくい”問題となりますので,時にはわからない問題を飛ばして次の問題に進む勇気も必要になります。過去問や予想問題で演習を積み重ね,京大世界史を攻略するための戦略を身につけていきましょう。