2017年度京都大学個別試験 分析速報

■分量と難度の変化(理科…時間:1科目90分,2科目180分) 
・分量は昨年並みだが,計算量が例年になく少ない。
・難易度は昨年度より易化(体感的には例年よりかなり易)。
■今年度入試の特記事項 
・近年は,全体的に難度が高いうえに分量が多く,解答の際の負担感が大きい出題が続いていたが,今年度は易しい設問が多かった。骨のある問題を予想していた受験生は,少し拍子抜けしたかもしれない。
■合否の分かれ目 
・計算量が例年より少なく取り組みやすい設問が並ぶとはいえ,全体的な分量は時間に対して多めなので,誘導に乗ってどこまで解き進められたかが鍵。
・物理問題Iでは,空欄「コ」までをミスなく解き進められたかどうかで差がついただろう。
・物理問題IIでは,空欄「カ」までをミスなく解き進められたかどうか(「Cを含む式として」といった条件を踏まえて答えられたか)で点差が開いただろう。
・物理問題IIIは,広場と部屋の音速の違いや,ドップラー効果の符号などでケアレスミスが起こりやすい。ミスなく解けたかどうかが明暗を分けただろう。
■大問別ポイント
 物理問題 I 

・ばねを利用した球の打ち出し装置から発射された球が,鉛直面内にある円弧状の二重レール(内側レールと外側レール)の間を運動する問題。
・各設問で立てるべき式は,力学的エネルギー保存則,運動量保存則,等加速度運動の式など,基本的なものばかりだが,「速さ」ではなく「運動エネルギー」を軸に議論を進めていることに注意したい。
・全体を通して特別難しい設問はなく,論述問題も論じるべきポイントがはっきりしているので,物理が得意であれば,時間内に最後まで通して解くことも可能である。
 物理問題 II 
・ホール効果とコンデンサーに関する問題。
・(1)はホール効果に関する基本的な設問ばかりで,計算もほとんどないので,完答したい。
・(2)は半導体に面状に注入した電子群を薄い導体板とみなす設定。目新しい設定で,長い問題文を読み解いて状況を整理する力が必要だが,説明がくどいくらいに親切なので,丁寧に解き進めていけば,最後まで解ききることも十分に可能である。空欄補充問題が最後まで解けたなら,グラフもあっさり作図できるだろう。
 物理問題 III 
・ドップラー効果と音の干渉に関する問題。
・(1)と(2)は,広場にある車が鳴らす音を,部屋の中にいる観測者が聞く設定。広場と部屋では音速が異なることに注意したい。
・(3)は,車が壁と平行に走り,壁で反射された音を車の中の人が聞く設定。図を描いて,幾何的な関係式を導く必要がある。
・(4)は,直接音と,壁で反射された音との干渉について考える設定で,骨がある。

京大物理攻略のためのアドバイス

京大物理を攻略するには,次の3つの要素を満たす必要がある。
●要求1● 問題文を読解する力
   京大物理の問題文は,分量が多く,目新しい題材を扱う場合が多い。設定を的確に把握するためには,相当の読解力が必要である。また,問題文にはヒントが含まれていることもあり,この読み取りが,合否を分ける。 
●要求2● 正確かつ迅速に計算する力
   各設問で与えられる記号(物理量)が多く,設問数も計算量も多い。このため,煩雑な計算をミスなく行い,かつ,速く解く必要がある。
●要求3● 解くべき問題を見極める力
     問題文が長く,計算量も多いため,京大物理を時間内にすべて解くのは厳しい。このため,試験開始直後に問題全体にざっと目を通して解くべき問題を見極めること,および,その解答に必要な時間を適切に配分することが,合格点(ひいては高得点)の確保に向けて重要となる。大問の途中で解けない設問があっても,大問の最後の方で独立して解ける設問がある場合が多いので,諦めず全体に目を通し,「解ける設問を確実に解く」姿勢が,合格には必須である。
 
   まずは,●要求2●を意識して,ミスなく要領よく解答できる力をつけよう。基礎力がある程度ついたら,京大レベルの問題に慣れていこう。Z会の通信教育では,読解力向上や重量級の計算にも対処する力の養成を念頭に置いた出題を行っている。
 ●要求1●や●要求3●は実戦演習の中で培われる力である。京大物理は,早めに基礎を固め,徐々に長い問題文に慣れていかないと,太刀打ちできない。自分の得意不得意,問題の難易度を意識し,試験時間をめいっぱい活用して得点を最大化できるような解き方を身につけてほしい。
▼「京大コース」物理担当者からのメッセージ
 京大物理といえば「問題文長い! 計算多い! 難しい!」の三重苦……をイメージしていた受験生にとっては,今年の入試はちょっと拍子抜けだったかもしれません。(私もかなり身構えて解き始めましたが,途中で気が抜けました。)
例年,京大物理では,「この設問,時間内に解くのは絶対ムリ!」という,積極的に解かないことを強くお勧めする,いわゆる「捨て問」がいくつも見られるのですが,今年は「捨て問」はありませんでした。過去の正答率を見た出題者が「正答率1%に満たない設問が結構あるけど,これ入試に出す意味ないんじゃない?」と気づいたのかどうなのか……。

ところで,とくに今年の物理問題IIに顕著だと思うのですが,京大物理では,目新しい題材を扱うことが多いです。慣れないうちは設定に戸惑うかもしれませんが,京大物理では「くどいよ!」と言いたくなるくらい親切に説明してくれるので(これが問題文が長大になる原因),意外とあっさり解けます。むしろ,目新しい題材で,問題文が長いほど,易しいことが多い気がします。
 このため「これ,物理の力というより,読解力を測っているのでは……?」と思うこともしばしばですが,見慣れない状況でも冷静に,現象をモデル化し,物理『で』解釈できる人が欲しい,という京大のメッセージなのかもしれません。