2017年度京都大学個別試験 分析速報

■分量と難度の変化(時間:90分) 
・出題構成は,例年通り,大問4題構成で,Iが史料問題,IIが幅広い時代の空欄補充型の雑題,IIIがリード文形式の空欄補充・単答問題,IVが論述問題(200字×2問)であった。
・全体的な難易度は例年並みである。
■今年度入試の特記事項 
・2014年度以来となる正誤文選択問題が1問出題された。
・2016年度のIで見られた歴史資料(写真)を提示した問題は,2017年度は出題されなかった。
■合否の分かれ目 
・I〜IIIは,一部難解な問題も見られるが,概ね基本事項なので,ここで取りこぼしをしないようにしたい。ほぼすべて記述なので誤字で失点しないよう,正確な漢字で歴史用語を書けるようにしておきたい。
・最も差がつくのはIVの論述問題だと考えられる。2017年度のように,制度や政策の変遷・推移を述べる問題では,変化・転換の背景や契機となる出来事などを含めて,論理的に解答をまとめていく必要がある。正確な知識に加えて,例えば(2)でポイントとなった「地方市場の成長や物価政策が幕府の仲間政策とどう関わるのか」といった歴史的な因果関係や仕組みの理解が重要であり,その上で,それを解答に的確な表現で反映させるための論理的構成力・表現力を磨いておくことが求められる。
■大問別ポイント
 大問I 

・例年通り,文献史料からの出題で,空欄補充・単答・正誤問題形式で問われた。
・史料は,A:国司苛政上訴(『小右記』),B:嘉吉の徳政一揆(『建内記』),C:安倍晋三首相の戦後70年談話。
・A・Bは出典・年代が示されており,Cも現代語の史料であるため,史料の時代把握や読解はいずれも容易。史料読解を要する設問は少なく,基本的な知識問題が多くを占めた。
・問(1)は,地理的把握を問う問題。
・問(6)の正誤文選択問題は,史料文を落ち着いて読み取れば難しくはない。
・問(12)は,史料中の「洛中」「辺土」に着目することがポイント。
・問(17)や問(19)は,直接的な知識がなくても,戦後の歴代首相や組閣時期に関する知識などを組み合わせて考えれば解答は可能である。
 大問II 
・例年通り,複数の短文の空欄補充形式の出題であった。
・原始から昭和戦前の幅広い時代から,文化を中心に政治・社会・外交についても問われた。
・エ(黒塚古墳),カ(杖刀人)は難,テ(地租)もやや難だが,それ以外は基本知識で解ける問題が中心なので,高得点を獲得しておきたい。
 大問III 
・例年通り,リード文型の空欄補充・単答形式の出題であった。
・3つのリード文のテーマは,A:奈良時代の政治・社会,B:江戸時代の政治,C:大正・昭和戦前期の外交・軍事政策。
・ウ(房戸),ケ(軍事教練),ス(国民義勇隊)は細かい知識でやや難。
・問(6)は三世一身法の内容の理解が問われた。京大志望者であれば,きちんと解答できてほしいところ。
・問(3)や問(10)は,何を答えればよいかを把握しづらいが,知識を踏まえた考察により答えを導きたい。
 大問IV 
・例年通り,200字の論述問題が2問出題された。
(1):鎌倉時代の荘園支配の変遷
・幕府の支配拡大の推移に伴って,武士(地頭)の荘園支配が強化されていく流れを追っていけばよい。地頭請・下地中分の説明で終わらず,鎌倉時代末に悪党の出現によって荘園支配が動揺するところまで述べたい。
・蒙古襲来後に幕府の支配が本所一円地にまで及ぶようになったことや,鎌倉時代末の悪党の出現については,通常の教科書学習ではあまり「荘園制」の視点から学習していないかもしれない。テーマに沿った論述対策や,多面的な学習ができていたかどうかで差がついただろう。

(2):田沼時代〜幕末の三都における幕府の仲間政策
・田沼の株仲間奨励,天保期の解散令,幕末期の五品江戸廻送令などはすぐに想起できるだろう。地方市場の成長や物価統制策と関連させながら論じられるかどうかがポイント。
・田沼時代(18世紀後半)から天保期の株仲間解散令(19世紀半ば)の間の期間の動向についても触れるべきであるが,国訴の発生を導き出すのはやや難しいといえる。設問の「地方市場」に留意せよという条件も頼りに,当時の在郷商人の台頭などを想起し,「仲間政策」との関連を考えていくことでこの要素を導き出せれば,完成度の高い解答になる。

京大日本史攻略のためのアドバイス

京大日本史を攻略するには、次の3つの要素を満たす必要がある。
●要求1● 全時代・全分野にわたる知識
 京大日本史では多くの単答記述問題が出題される。毎年幅広い時代・分野が満遍なく出題されるため,全時代・全分野にわたる知識と,それを正確に書ける力が必須である。とくに学習が疎かになりがちな昭和戦後史や文化史の出題も多く見られるので,漏れのないように学習してほしい。
●要求2● 史料の正確な読解
  京大日本史では様々な時代の史料が出題されている。未見史料も必出なので,史料中のキーワードや出典・設問文をヒントに史料文を読解する力を身につける必要がある。
●要求3● 設問の要求に沿った論述
   例年200字の論述問題が2問出題されている。リード文などヒントのない端的な設問で出題されるので,設問の意図を的確につかむ力と,知識を取捨選択して論理的に解答を組み立てる力が必要である。また,各時代・分野の重要テーマが出題されることもあるため,論述問題で出題されやすいテーマについては,一通り解いておくようにしたい。
基礎力の完成
まずは要求1を満たすことをめざそう。京大で出題される細かな知識問題に対応するためにも,教科書の基本事項は早めに身につけておきたい。また,既習分野については論述問題の対策も始めよう。Z会の通信教育で,知識の拡充と論述のトレーニングの両方が可能である。

入試形式に合わせた対策
要求2・3を強化するためには,史料問題・論述問題の演習を繰り返そう。但し単答問題の多い京大日本史では,知識量の底上げも必要なので,バランスのよい演習をしていきたい。Z会の通信教育では,答案を作成する力の養成を念頭に京大対応の問題を出題する。

実戦演習
京大日本史は時間に比して出題数が多いので,実際の入試での時間配分を考えながら演習を行う必要がある。時間を計って解くなどして,より本番に近い答案作成を行おう。
▼「京大コース」日本史担当者からのメッセージ
・Iの史料問題では,昨年度出題された歴史資料(写真)が今年も出題されるのか?と注目していましたが,今年度はこれまで通り,文献史料のみの出題となりましたね。とはいえ,歴史資料に対する対策が不要だったというのは気が早いです。写真そのものが出題されたわけではないものの,Iの問(1)(「丹波」を答える地理的把握を要する問題),IIのカ(江田船山古墳出土鉄刀銘に記された「杖刀人」を答える問題),IIのキ・ク(飛鳥寺の伽藍配置に関する問題)などは,歴史的な史・資料や地図などを意識した学習ができていたかどうかがポイントとなる問題でした。日頃から,教科書や図説・資料集に掲載されている史・資料,地図などにも注意を払って学習を進めてほしいと思います。
・試験時間90分に対して,単答70問+200字論述2問というハードさは今年度も健在でした。I〜IIIの単答は,迷っている時間はありません。解答用語は基本的なものが中心ではありますが,問い方に一癖二癖あるものや,よく読まずに反射的に答えると間違えそうな問題なども散見されるので,“焦らず設問をよく読む,でも手早く解答する”ことが求められますね。過去問演習や予想問題でのシミュレーションの大切さを痛感させられる試験でした。Z会の特講「過去問添削 京大日本史」や特講「直前予想演習 京大日本史」などでの対策は効果を発揮してくれたはずです。
・IVの論述問題は,2問とも社会・経済分野からの出題で,苦手意識のある人もいたかもしれません。しかし,どちらの問題も,解答の要素の大半は基本的な知識,典型的な論述対策で対応可能ですので,そうした要素を落とさずに確実に得点につなげることができたかどうかが,合格点へ到達するためのポイントとなったでしょう。