2017年度京都大学個別試験 分析速報

■分量と難度の変化(時間:90分) 
・例年,大問4題で構成され,自然(地形図の読図を含む),産業,社会,地誌の4分野から構成されることが多い。
・論述問題を中心に単答問題(選択・空欄補充を含む)も多く出題される。
・大問1題につき,2〜3つの資料が提示されることが多い。
■今年度入試の特記事項 
・大問Iの地形図は岐阜県の沖積平野の地形図であった。
・指定字数のある問の総字数は440字(2016年度は360字),字数指定のない短文論述(20〜30字程度)が5問(2016年度は6問)で,論述総字数は昨年度よりも増加している。
・大問IIで2011年度以来の作図問題(カレーズの断面の模式図)が出題された。
・空欄補充形式の出題は見られなかった。
・地誌分野からの出題は見られなかった。
 
■合否の分かれ目 
・単答問題も基本的な用語を問うものが多く,また論述問題も難易度の高いものはあまり見られないため,十分に対策を行った受験生であれば解答できる問題が大半である。しかし,そのことはすべての京大受験生に共通して言えることであるため,1〜2点が合否を分けることがある。単答問題の失点やケアレスミスは絶対に避けたい。
・設問文が解答のヒントになっているものが多い。設問文をよく読むことで効率的に取り組むことができ,高得点を目指すことも可能となる。
・大問IIの作図問題のような頻度の低い問題が出題されても,焦らず冷静に問題に取り組めたかどうかも合否を分けるポイントとなる。
 
■大問別ポイント
 大問I 

長良川・揖斐川に挟まれた輪中集落が見られる沖積平野(岐阜県安八郡)の地形図読図問題である。読図問題として頻出の地形であり,難易度は高くない。
・(1)1は集落の標高や立地状況から自然堤防であることは判別しやすい。2は自然堤防の利点や特徴だけでなく成因まで触れられると十分な解答となる。
・(3)は水田が持つ保水力について思いつくかどうかがカギとなる。
・(4)は「新田」の地名から集落の成り立ちは分かるものの,それだけでは指定字数に足らず,字数を埋めるのが難しい。
・(5)は昭和49年修正測量の地形図が示されていないため限定しにくいが,新しい住宅地の特徴を考えれば容易である。また,2万5000分の1地形図における1kmの長さを判定することも,解答する上で大事な要素である。
 
 大問II 
Aはともに灌漑農業を行うアフガニスタンのカレーズ,アメリカ合衆国のセンターピボットの衛星画像を用いた出題であり,Bは地中海沿岸地域の農業に関する出題である。京大地理で頻出の写真を用いた出題であるが,いずれも基本的な内容であり,解答はしやすい。
・(1)1は地域により呼び名が違う同様の地下水路があるが,問題に「アフガニスタン」と地域が指定されているため「カレーズ」を解答したい。2の作図問題は2011年以来の出題である。設問文に「必要に応じて説明語句を加える」とあるので忘れないようにしたい。帯水層から地下水を引いていることを指摘するのは難しい。
・(4)は地図上に登場しないナイル川源流付近の気候の特徴を思い出し,的確に説明できるかどうかがカギとなる。
・(6)はアフリカ北部の気候区分を詳細に理解できているかがポイントとなるが,説明しやすい内容である。
 
 大問III 
就業構造に関する出題である。基本的な内容ではあるが,資料の読み取りに工夫が必要であったり,時事的なテーマも含まれているため,2017年度の出題の中では一番難易度が高い問題である。
・(1)の産業別就業者割合の国名判別は,選択肢で挙がっている7カ国から選ぼうとすると難しいが,選択肢の国のうち,地図でグラフ1に図示されていない国を省いてから考えると分かりやすい。
・(3)の中国の労働者の移動は,内陸部の農村から臨海部の都市への移動だけでなく,両地域の所得水準の高低についても忘れずに触れたい。
・(4)と(5)2はニュースなどでも取り上げられる内容で,時事的な内容にどれだけアンテナを張っているかで点差が開く。
・(6)のEUの東方拡大による労働への影響は教科書でも取り上げられている内容で,解答は容易である。
 
 大問IV 
食料,生活環境,住居に関する出題である。資料判読問題が多いが,判定は容易である。後の問題にも関わってくるため,(1)ですべての国について判定できるかどうかがポイントである。
・(1)〜(3)は完答をめざしたい。
・(4)は人口や乳幼児死亡率などをもとに地域を判定したい。
・(5)は「1990年から2015年」と年代が限定されてはいるが,近年の状況として考えれば分かりやすい。
・(7)2の高床式住居の利点については,自然環境と住居の構造をバランスよく解答したい。
 

京大地理攻略のためのアドバイス

京大地理を攻略するには,次の3つの要素を満たす必要がある。
●要求1●  幅広い分野についての知識力
 京大地理は,自然(地形図の読図を含む),産業,社会(都市・人口・民族など),地誌などといった幅広い分野から出題されるのが特徴である。細かい知識について問われることは少ないが,高校地理の全分野にわたって基本的な知識を押さえておく必要がある。また,基本的な用語については,40〜50字程度で簡潔に説明できるようにしておくことが望ましい。
●要求2● 正確な資料読解力
 京大地理では,多数の資料が提示される。資料の判読を行い,その判定結果をもとに論述するという出題構成が見られるので,資料判読を誤ると大量失点につながりかねない。例年,出題されている資料の中には読み取りが難しいものも珍しくないため,正確な資料読解力が求められる。
●要求3●  簡潔に論述する表現力
 論述問題の1題当たりの指定字数は100字以内で,40〜60字程度のものが最も多いが,いざ書いてみると,字数が足りなくなることもあれば余ることもある。また,2015年度から出題されている字数指定なしの論述問題に取り組む場合にも,解答欄に合わせて適切な分量を見極める必要がある(解答欄の大きさから20〜30字程度)。様々な角度から解答できるよう,基礎的な知識と簡潔にまとめる表現力が必要である。
 攻略法として,まずは要求1を満たすことを目指そう。授業での教科書学習を中心にして幅広い知識を正確に獲得することに努めよう。Z会の通信教育の講座を利用するなどして,高校3年生の夏までに,各分野の基本事項を理解しながら学習を進めていこう。2017年度の試験のように,基礎的な知識で対応できる問題が出題されることもあるので,基礎固めを疎かにせず確実に自分のものにしておきたい。

 次の段階としては,基礎知識を使いこなしながら,京大型の論述問題に対応できるようになろう。Z会の通信教育の講座では,高校1・2年生や受験生の夏までの間にも取り組めるよう,論述問題を段階的に出題している。また,Z会の通信教育の講座では資料問題も数多く出題しているため,京大地理攻略の大きなポイントでもある資料読解力も磨くことができる。

 最後は実戦演習を行おう。制限時間を意識して,素早く正確に資料判読を行うとともに,短い指定字数の中で,的確に論述をまとめられるようになろう。Z会の通信教育の講座では京大に対応した,資料の判読を行い,その判定結果をもとに論述するという構成の問題も出題しているので,自分の得意不得意,問題の難易度を意識し,時間内で得点を最大化できるよう取り組み方を身につけてほしい。
▼「難関国公立コース」地理担当者からのメッセージ
・大問Iは,地形図内に「長良(川)」「揖斐川」の文字がありましたので,地形の特徴はつかみやすかったと思います。
・大問IIのAは,灌漑用地下水路の名称は「カナート」「フォガラ」は出てくるけど,アフガニスタンでは何だっけ…? と思った人もいたかもしれません。地域により名称が変わるものは入試でも頻出ですので,用語と地域はセットにして覚えておきたいところです。2016年度の本科「難関国公立コース 地理」2−2の大問3を学習していれば,名称も断面図も描けたでしょう。
・大問IIIは難しめの出題でしたが,(1)の国名判別がうまくできると,その後は調子よく解答できたかと思います。グラフに該当しない国が選択肢にあるのは少し意地悪かもしれませんが,「問題や図はよく読め」という戒めになったかと思います。
・大問IVは,(3)で「E国では,1人1日あたりの肉類の供給量が少ない…宗教的理由を」述べる問題でした。ここから,E国が豚を食べることを禁じているイスラム教徒が多いインドネシアと想起することもできます。このように別の問題の設問文がヒントになることもありますので,設問文はよく読んで取り組みましょう。