2017年度京都大学個別試験 分析速報

■分量と難度の変化
・現代文・現代文・古文の3題の出題。
・(一)の現代文のみ文理共通の文章からの出題。(理系は1問設問数が少ない)
・すべて記述式。解答欄は1行14センチで、3行〜5行程度の設問が大問1題につき3〜5問(理系は3〜4問)出題される。解答時間に対する記述量はかなり多めである。
・全体的な出題の分量は変化なし。 難易度は2016年度よりやや易化した。
■今年度入試の特記事項 
・2016年度に出題された(一)での漢字書き取り問題が今年度はなく、記述問題が1問増えた。しかし、解答欄の行数は2016年度と変わらず、全体の分量に大きな変化はない。
・(二)は2016年度の小説と異なり、硬質な評論からの出題。
・(三)の古文は漢詩について解説する近世の詩話からの出題。漢詩の一節を口語訳させる設問が出題された。
■合否の分かれ目 
・感覚的な読解が求められる(一)、硬質な評論文の論理展開を正確に把握する必要がある(二)と現代文はいずれも京大らしい難度の高い出題であり、取り組みやすい設問を見極め、確実に解答欄を埋めていくことが重要になる。
・(三)の古文は問題文の分量が少なく比較的読解しやすいので、取りこぼしのないよう、丁寧に逐語訳して解答を作成することが大切。
■大問別ポイント
 第1問(現代文)
  出典:串田孫一「山村の秋」
・京大頻出の文学的な随筆で、情景描写から筆者の心情をつかむ必要がある出題。問題文中の表現を引き写すだけでは解答を作成できないので、情景描写によって喚起されるイメージをふくらませて解答を作成することが求められる。文学的な文章の読解経験を積んでいないと太刀打ちできない。
・問一は問題文冒頭付近に傍線が引かれ、どこまで解答要素に含めるべきか判断に迷う設問。問二は指示語の設問だが、情景描写から浮かぶイメージを自分なりの言葉で表現することが求められる。
・問三・問四は理由説明を求められていることもあり、解答の組み立て方に注意する必要がある。問五(文系のみ)は、傍線部直前の記述をわかりやすく言い換えた上で、問題文全体を踏まえて〈筆者は村の暮らしに憧れたが、部外者は調和の中に入れない〉ことまで明記するとよいだろう。
 第2問(現代文)   出典:西郷信綱『古事記注釈』
・「作品を読む」という営みについて論じた文章。2016年度の小説から一転して、硬質な評論が出題された。論理展開自体はさほど難解ではないが、文中の「弁証法」や「共時・通時」などといった評論上の概念・キーワードはいずれも注が付されていないため、テーマ知識として事前に身につけている必要があった。
・問一や問四は解答に必要となる内容が比較的つかみやすく、落としてはいけない設問。問五は「本文全体を踏まえて」説明する問題で、それまでの設問でとらえた内容も踏まえて「歴史的経験」を説明することが求められた。
・いずれの設問においても、精密な解答作成能力が問われている。問題文読解には必要以上に時間をかけすぎず、じっくりと各設問の解答に取り組み答案の精度向上をめざしたい。 
 第3問(古文)   出典:津阪東陽『夜航余話』
・漢文が引用されているが、その要旨は本文中に記されているので、落ち着いて読解したい。
・問一は傍線部を正確に品詞分解し、過不足なく現代語に置き換える。問二は「言葉を補いつつ」という指示があるので、「其」の指示内容(=「国家の用に立たん」)を補って現代語に置き換えればよい。
・問三ではまず傍線部の意味を解釈し、「いとほしむ」対象の「その行末」の内容を〈夜遅くまで勉学に励む若い人の将来〉などと明らかにしながら説明する。
・問四の波線部は返り点に従うと「孤村 暁ニ到レルニ猶ホ灯火アリ、知ル 人家ニ夜 書ヲ読ムモノ有リ」と読み下せる。おおよその意味は、問題文の5・6行目に「ここに暁を侵して……よもすがら書をよむ人ありと覚ゆ」に記されている。
・問五はまず現代語訳すべき「和歌」を「今さらに……世とはしらずや」の箇所と特定し、「暁行」の詩と「同一感慨なり」という評価を参考に解釈する。「うきふし」に、〈竹の節〉と〈世の中の「憂き節」〉とが掛けられていることを忘れずに訳出する。

京大文系国語攻略のためのアドバイス

京大文系国語を攻略するには、次の3つの要素を満たす必要がある。
●要求1● 基本的な語彙力
  文学的・抽象的な表現を含む文章からの出題が多い京大国語では、読解力・記述力ともに高いレベルが要求される。その水準に達するためには、基本語彙の意味を正確に把握し、記述する際にも適切な語を選ぶことができる語彙の運用力が必要不可欠。Z会の書籍『現代文 キーワード読解』『速読古文単語』などで、語彙力の基礎を固めよう。
●要求2● 幅広いジャンルに対応できる読解力
  京大国語では、評論・随筆・小説など、普段受験生が読み慣れないであろうさまざまなジャンルの文章から出題されるため、京大で出題されそうな文章の読解経験の量がものをいう。問題文中に直接的に表現されていなくとも、文中の表現のニュアンスを汲み取り、筆者の主張や心情を正確に読み取る力が必要である。
●要求3● 大意をまとめなおす記述力
   京大国語の設問は、すべてが記述式問題であり、求められる記述の分量もかなり多い。解答に必要な要素を見極める力と、必要な要素を正確に伝わる形で解答にまとめなおす力が求められる。問題文中の記述の寄せ集めではなく、適宜自分の言葉で言い換えたりふくらませたりすることができる確かな記述力が必要である。
   受験生の夏までは、まずは土台となる●要求1・2●を満たすことを目指そう。Z会では、通信教育・教室ともにさまざまなジャンルの問題文を出題するので、読解経験を積むことができる。語彙・文法事項といった知識事項の抜け漏れをつぶしていくと同時に、記述演習にも取り組むことで、第三者に伝わる解答の作成法を身につけよう。その後は、さらに●要求2・3●に対応する力を磨いていこう。Z会の通信教育では、受験生の9月からより実戦的な京大対応のオリジナル問題を出題する。第三者の客観的な視点からの添削指導を受けて、自分の解答に足りない要素やまとめ方のコツを把握し、解答の質を高めていこう。読解量・記述量ともに負担が重い京大国語に対応するために、制限時間内でうまく解答をまとめることを意識して問題演習を行おう。入試直前期には、過去問演習に加えて予想問題にも取り組むことが大切だ。本番前の最終調整として、より本番に近い形での演習をするとよい。
▼「京大コース」文系国語担当者からのメッセージ
・(一)は京大頻出の文学的な随筆、(二)は硬質な評論からの出題で、幅広い文章ジャンルの演習経験で差がつく京大らしい出題でした。(三)の古文は2016年度に比べやや易化したので、ここで取りこぼさずに得点を確保することが重要です。
・(一)は、情景描写からイメージをふくらませ、筆者の心情をつかんで解答にまとめる必要があり、随筆・小説といった文学的文章での問題演習を積んでいるか否かで差がつきます。2016年度の本科「京大文系国語」や専科「京大即応演習」では、何回か文学的文章も出題していますので、解答作成のコツをつかむことができたはずです。
・(二)は、「歴史的経験」「弁証法」「共時・通時」といったキーワードを用いながら、「作品を読む」とはどういうことかを論じた文学論。2016年度の本科「京大文系国語」10−2でも、〈フランスの哲学者バルトの文学理論〉について論じる文章を出題しています。〈文学は、意味が確定しない文学言語によって綴られ、読者がそこにさまざまな意味を見出すことができる包容力をもつ〉というテーマを扱っており、今回の出題の主題にも通じるところがある文章でした。
・(三)の古文では、漢文部分の口語訳が求められました。漢文に関連した出題が2016年度から続いており、単独の大問として問われることはなくても、しっかり知識を身に付けておいてほしいという出題者のメッセージが見てとれます。2016年度の本科「京大文系国語」実戦トレーニング期では漢文の学習に取り組んでいますので、必修テーマを通じて体系立てて知識を整理できていた受験生であれば、問題なく対応することができたでしょう。