2017年度京都大学個別試験 分析速報

■分量と難度の変化(理科…1科目90分,2科目180分) 
・各分野から出題されるが,「遺伝情報とその発現」および「生態と環境」からの出題頻度が比較的高い。
・教科書に掲載のない初見の題材をもとにした出題が基本となる。
・知識問題も出題されるが,考察問題が出題の中心である。論述問題は,解答欄の範囲内で答える。
■今年度入試の特記事項 
・論述の題数は2016年度から大幅に増えたが,1つ1つの記述量は少ないため,全体の記述量は例年並みといえる。
・2015・2016年度にみられたような,教科書でまったくもしくはほとんど扱いのない知識問題は出題されなかった。
・5年以上出題されてきた遺伝や集団遺伝の設問がなかった。
■合否の分かれ目 
・生物問題II問2・3や,生物問題III問5・問7など,検討に時間のかかる考察問題が多く,これらの問題に落ち着いて取り組む時間を取れたかどうかが,合否の分かれ目になっただろう。
・生物問題I問1・2・4,生物問題III問4,生物問題IV問1・2などの,教科書レベルの知識で解答できる問題は,時間をかけずに解き進められるようにしておいてほしい。
・生物問題II問6は,5つに足りなくとも思いついたものを書いてほかに進みたい。
・いずれの大問も完答は難しいので,解ける設問で確実に得点を重ねることが必要である。論述問題はわかっていないことまで無理に踏み込まず,読み取れた内容のみを簡潔に記し,無駄な失点を防ぐこと。
■大問別ポイント
 第1問 

・問2は全か無かの法則をグラフと関連付けること。問3は光刺激でクロライド(Cl)チャネルが開くことに注目。
・(B)は取り組みやすい中問であった。問5は既知の鉄含有タンパク質(ヘモグロビンなど)の働きから推定できる。
 第2問 
・(A)と(B)は関連した題材。
・問2は変異株A(ヒスチジン要求性の株)から,もとの株のような,無ヒスチジン培地でも育つ株が生じ,その数は肝臓抽出液量に比例することから考える。
・問5は,グルコースがあるならグルコース以外を基質とする呼吸経路は非必須になる。
・問6は生物の特徴から考える。「生物の進化と系統」で学習した生命の起源が参考になる。
 第3問 
・最も取り組みにくい大問である。
・問1は,設問文にあるように,他の臓器移植において拒絶反応が起こるしくみから特性を考える。
・問3はとくにキラーT細胞の働きに注目。
・問5はそれぞれ,アはANが0である(点N−1と点N+1が重力方向に並ぶ)とき点Nに重力刺激がなくなること,イは屈曲度(θN)とともに大きくなって屈曲を是正することを手がかりに検討する。
 第4問 
・(A)は生物基礎「生物の多様性と生態系」で学習した内容で,比較的取り組みやすい中問であった。
・(B)は海洋性の植物プランクトンを切り口に,幅広い分野の小問が集まっている。問5はあまり深く悩まず,わかるところを確実に記述したい。

京大生物攻略のためのアドバイス

京大生物を攻略するには、次の3つの要素を満たす必要がある。
●要求1● 関連分野と連動した知識
  ハイレベルな勝負になる京大生物では,教科書レベルの知識でカバーできる用語問題や論述問題での失点は許されない。教科書と図説を参照する習慣を身につけよう。
 教科書で太字になっている語については単純に暗記するだけでなく,関連する生命現象と合わせて,自分の言葉で説明できるようにしておくこと。
●要求2● 実験データの読解力
  問題の分量が多いので,見慣れない実験の手法やデータをすばやく的確に読み解く必要がある。
 そのためには,条件や結論を箇条書きにして整理する訓練が有効。まずは標準レベルの実験考察問題に取り組むところから始め,徐々に京大レベルに近づけていこう。
●要求3● 考えたことを的確に伝える論述力
   論述力は自分の手を動かして答案を書き上げることが何よりも大切。
 実戦演習を重ねる中で,仮説→実験→結果→考察→仮説という一連の流れを自分なりに整理する癖を身につけ,論述に必要なキーワードを集めることから始めよう。
 書き上げた後は,独りよがりな答案になっていないか,添削をしてもらうとよい。

■知識力の完成
 なるべく早く●要求1●の完成を目指すこと(遅くとも高3の夏をめざそう)。とくに,「生態と環境」,「生物の進化と系統」は対策が遅れがちになるので,計画的に学習を進めよう。Z会の本『生物 知識の焦点』は,高校生物の全範囲について,教科書だけでは学べない入試頻出事項を解説しているので,知識力を固めるのに最適である。

■演習量の確保
 入試形式の演習問題になるべく数多くあたり,●要求2・3●のレベルUPを図ろう。典型・頻出問題は一通りこなしておくこと。Z会の通信教育でも,京大の出題レベルに合わせて典型・頻出問題を出題していく。

■速読・速解の習得
 問題の分量が多い京大生物では,なるべく全部の設問に手をつけられるよう,問題を解くスピードも重要になってくる。本番の入試を意識して,時間配分にも気を配った演習を積もう。

▼「京大コース」生物担当者からのメッセージ
・毎年楽しみにしていた,遺伝が出ませんでした。しくしく。
・去年ほどではありませんが,設問の難易度はいろいろです。リード文を読んで「無理!」と思っても,知識問題や解けそうな問題がないか,設問にもざっと目を通しましょう。
・II問6の最後の1つや,III問7のような,いつまでも考えていられる問題にうっかり楽しくはまっていると後が大変です。試験ですからそこはこらえて,とりあえずわかることを書いたらほかにいきましょう。
・II文(A)の実験3の最後「肝臓抽出液の量が多いほど形成されるコロニーの数が多くなった」。そして実験4「…加熱処理した後…コロニーは形成されなかった」。なかなか味わい深いですね。
・III問4はどのくらいの解答欄サイズだったのでしょうか。もし,大きいようなら,イにはZ会本科生物の12月1回目の第3問(クロロフィルとバクテリオクロロフィル,緑藻類と光合成細菌の居住域)が効いたと思います。