分析速報

■分量と難度の変化
・現代文・現代文・古文の3題の出題。
・(一)の現代文のみ文理共通の文章からの出題。(理系は1問設問数が少ない)
・すべて記述式。解答欄は1行14センチで、2行〜5行程度の設問が大問1題につき3〜5問(理系は3〜4問)出題される。解答時間に対する記述量はかなり多めである。
・分量・難度とも2018年度から大きな変化はなかった。京大入試としては標準的な難度の出題であった。
■今年度入試の特記事項 
・2018年度に続き、(一)は評論からの出題となった。2017・2018年度同様、漢字書き取り問題の出題はなかった。
・(二)は批評のあり方について論じた評論からの出題で、難度は標準的。
・(三)は中古の作り物語からの出題。和歌の現代語訳も問われた。
■合否の分かれ目 
(三)の古文は、和歌を含む中古の物語からの出題。話の筋をとらえること自体はさほど難しくないが、それだけに〈修辞技法や用いられた表現に注意し、文脈・場面に沿って和歌を解釈する力〉〈傍線部の一字一句に至るまで注意を払い、精密に訳語を選択する力〉といった記述解答の実力の有無で明確に差がつく出題だった。入試までに様々なテーマ・ジャンルの文章に取り組み、記述解答作成も含めた問題演習を意識して積んできたかどうかが、合否を分けるポイントとなっただろう。
■大問別ポイント
 第1問(現代文)
  出典:金森修『科学思想史の哲学』
近代科学のあり方と、そこに対するオールタナティブ(=代案)としての可能性をもつ寺田寅彦の物理学について対比して論じた文章からの出題。論理展開は明確で、筆者の主張はつかみやすい。ただ、解答作成においては、傍線部周辺から解答要素を探すことができる設問と、文中に明記されていない内容を自分なりに類推して表現しなければならない設問とで難度が異なり、さまざまな文章に触れ、京大型の記述演習を積んでいたかどうかで差が開く出題だった。
・問一・問二は3行・4行という解答欄の大きさを踏まえて、傍線部前後の記述をわかりやすく言い換えてまとめればよい。
・問三は、寺田寅彦の物理学のありようについて、文中の記述から類推して自分なりの表現を加えてまとめなおす必要がある。寺田寅彦の文章に触れたことがあれば、よりイメージしやすかったかもしれない。
・3行〜5行という広い解答欄を踏まえ、自分なりに表現を工夫してまとめる必要のある京大らしい出題で、例年通り記述問題の演習経験が求められた。
 第2問(現代文)   出典:吉田秀和「音を言葉でおきかえること」
音楽評論家の筆者による、「批評」のあり方について論じた文章からの出題。筆者の主張は明快で解答の方向性もつかみやすいが、解答欄の大きさにも考慮しながら必要な要素を過不足なくまとめる力が必要。全体的に解答の根拠が本文中に明示されているため、傍線部に至るまでの文脈を確実に把握し解答を丁寧にまとめることを意識して、大きな失点は避けたい。
・問一は、良い批評家は〈自分の考えを絶対視しない〉からこそ他者を説得するために労力をかける、という筋道を押さえる。
・問二は、「対象の核心を簡潔な言葉でいいあてる」ことがすぐれた批評家の営みである、という筆者の考えを押さえると、対象を「無性格な中性的な言葉」で評することがなぜ「批評の降伏」になるのか、見えてくるだろう。
・問三は、〈批評はそれ自身が一つの作品・言語芸術である〉という筆者の考えを中心に説明する。本文後半の内容を押さえ、批評に対する筆者の考えを簡潔にまとめたい。
 
 第3問(古文)   出典:『落窪物語』
2013年度より6年連続で近世の文章から出題されていたが、2019年度は和歌を含む平安時代の物語からの出題となった。時代やジャンルを問わず、幅広い文章の演習経験を積んでいると有利だっただろう。問題文が短いうえ、冒頭のリード文や注釈も丁寧に付されており話の展開自体は把握しやすいため、例年の京大古文と同様、一文一文をどれだけ丁寧に解釈して答案に反映できるかがポイントとなる。
・問一では和歌に傍線が引かれて解釈が問われた。設問では「姫君が亡くなった実母に呼びかけた」という場面を踏まえて解釈するよう指示があり、「立ち帰り」「共にを消えよ」の訳出では〈戻ってきて、(私を連れて)一緒に死んでほしい〉など、適切に場面設定を反映させる必要がある。「つゆ」は〈ほんの少しも〉の副詞の意のほか、「(消えてしまう)露」という「消えよ」に係る表現としても解釈することが求められており、和歌修辞への理解の有無で差がついたと思われる。
・問二は〈少将が姫君と結婚したがっている〉と伝えられた状況を注から押さえ、「とありともかかりとも」について〈結婚するとしても、しないとしても〉とそれぞれ具体化してとらえる。「よきことはありなむや」は字面通りの疑問の意ではなく、反語の意で解釈することに注意が必要。
・問三は傍線部を逐語的に解釈して訳すことが求められる出題だが、助詞や助動詞、敬語表現などの文法事項について、訳出漏れのないように細心の注意を払う必要がある。

攻略のためのアドバイス

京大理系国語を攻略するには、次の3つの要素を満たす必要がある。
●要求1● 基本的な語彙力
  文学的・抽象的な表現を含む文章からの出題が多い京大国語では、読解力・記述力ともに高いレベルが要求される。その水準に達するためには、基本語彙の意味を正確に把握し、記述する際にも適切な語を選ぶことができる語彙の運用力が必要不可欠。Z会の書籍『現代文 キーワード読解』『速読古文単語』などで、語彙力の基礎を固めよう。
●要求2● 幅広いジャンルに対応できる読解力
  京大国語では、評論・随筆・小説など、普段受験生が読み慣れないであろうさまざまなジャンルの文章から出題されるため、京大で出題されそうな文章の読解経験の量がものをいう。問題文中に直接的に表現されていなくとも、文中の表現のニュアンスを汲み取り、筆者の主張や心情を正確に読み取る力が必要である。
●要求3● 大意をまとめなおす記述力
   京大国語の設問は、すべてが記述式問題であり、求められる記述の分量もかなり多い。解答に必要な要素を見極める力と、必要な要素を正確に伝わる形で解答にまとめなおす力が求められる。問題文中の記述の寄せ集めではなく、適宜自分の言葉で言い換えたりふくらませたりすることができる確かな記述力が必要である。
   受験生の夏までは、まずは土台となる●要求1・2●を満たすことを目指そう。Z会では、通信教育・教室ともにさまざまなジャンルの問題文を出題するので、読解経験を積むことができる。語彙・文法事項といった知識事項の抜け漏れをつぶしていくと同時に、記述演習にも取り組むことで、第三者に伝わる解答の作成法を身につけよう。その後は、さらに●要求2・3●を磨いていこう。Z会の通信教育では、受験生の9月からより実戦的な京大対応のオリジナル問題を出題する。第三者の客観的な視点からの添削指導を受けて、自分の解答に足りない要素やまとめ方のコツを把握し、解答の質を高めていこう。読解量・記述量ともに負担が重い京大国語に対応するために、制限時間内でうまく解答をまとめることを意識して問題演習を行おう。入試直前期には、過去問演習に加えて予想問題にも取り組むことが大切だ。本番前の最終調整として、より本番に近い形での演習をするとよい。
▼「京大コース」理系国語担当者からのメッセージ
・(一)は近代科学の可能性を広げる寺田寅彦の物理学のありようについて論じた文章、(二)は音楽評論家による批評のあるべき姿について論じる文章と、文系・理系の枠内にとどまらず知識・教養の幅を広げてほしいという京大のメッセージが感じられる出題でした。寺田寅彦の文章は2018年度のZ会専科「京大即応演習」でも出題していますが、一度彼の文章に触れたことがあれば、(一)の設問を解く際の助けとなったかもしれません。
・古文は入試頻出出典のひとつである『落窪物語』からの出題。古文の基礎知識をしっかり身につけ、細部まで丁寧に訳出できるかが問われる出題で、理系であってもしっかり古文の対策をしているかどうかで差が開いたでしょう。
・受験生がなかなか読み慣れないような文章から出題され、さらに広い解答欄に自分なりの言葉でわかりやすく解答をまとめていくことが要求される京大国語では、さまざまな文章の読解経験を積み、作成した解答を第三者に見てもらうことが非常に重要です。Z会では、長年の入試分析をもとに、本科「京大コース」、専科「京大即応演習」「過去問添削」など、京大合格までの道筋を支える講座を多数用意しています。良質な問題と添削指導を通じて盤石の実力を養成し、京大合格をつかみ取りましょう!

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