うまくいかない

ことだってある。

それでも

前を向いて

歩いていって

ほしい。

映画「サマーゴースト」公開記念 / loundraw監督インタビュー

今春からTVで流れているZ会のCM「一番近くて遠い星」は見ていただけただろうか。

この作品は、2021年11月12日(金)公開の映画「サマーゴースト」の世界観から作られたコンセプトムービー。「サマーゴースト」のもう一つの世界なのだ。

この作品で、監督を務めるのは、イラストレーターのloundrawさん。元Z会員でもある。

そう、Z会員にとっては、「loundraw先輩」なのだ。loundrawさんといえば、『君の膵臓をたべたい』(双葉文庫)や『君は月夜に光り輝く』(メディアワークス文庫)などの表紙や劇場版『名探偵コナン』のイメージボードのイラストでその名を耳にしていた人も多いのではないだろうか。

そのloundrawさんの初映画監督作品公開にあたり、なぜ、イラストレーターを目指したのか、初監督作品「サマーゴースト」にかける思いなどを聞いた。

loundraw(ラウンドロー)

イラストレーターとして10代のうちに商業デビュー。透明感、空気感のある色彩と、被写界深度を用いた緻密な空間設計を魅力とし、「君の膵臓をたべたい」「君は月夜に光り輝く」など様々な作品の装画を担当。イラストに始まり、アニメ、小説、漫画、作詞など表現は多岐にわたる。声優・下野紘、雨宮天らが参加した卒業制作オリジナルアニメーション「夢が覚めるまで」では、監督・脚本・演出・レイアウト・原画・動画・背景と制作のすべてを手がけ、累計500万回再生超のバイラルヒットを果たした。劇場版「名探偵コナン」、劇場アニメ「ジョゼと虎と魚たち」をはじめとするアニメーション作品へのクリエイター参加や音楽アート集団「CHRONICLE」でのアーティスト活動なども行う。2019年1月にアニメーションスタジオ《FLAT STUDIO》を設立。2022年11月には初監督映画作品「サマーゴースト」の公開が控える。

「モチベーション」の力を知った―中高時代

Z会は中学から高校までやっていました。最後はちょっとためてしまいましたが(笑)。ですが、勉強は順位なども意識して、しっかりやっていました。「ちゃんといい成績をとらなくては」という気持ちをもって勉強していましたね。

その一方で、絵を描くことも好きで。独学だったのですが、 中学2年生のころからパソコンで絵を描くようになりました。描いてみてなんだか違うなと思ったら、ネットで調べて、 そのやり方を試して…。とにかくずっと描いていました。

パソコンで絵を描くことは紙に描くのと全然違うので、最初はなかなか思ったとおりの色が塗れませんでした。でも、何回も回数を重ねると、だんだん自分の思うようなものが描けるようになる。こうして、さらにのめりこんでいきました。「絵を描くことを仕事にできたらいいな」とは、高校生くらいから漠然と思っていました。ですが、現実的にはたぶん自分はイラストは趣味にしながら大学に行って、どこかの企業に就職して…という人生を送るんだろう、とも思っていたんです。

高3の受験生のとき、僕は国立の理工系のある大学を志望校にしていました。常に順調だったわけではないのですが、 がんばればB判定が出るというところまでいったんです。ですが、高3の12月に「ぼくはこの学問が好きではない」と気づいてしまった。センター試験の1カ月ほど前です。このまま志望校に進んで学業を続けたとしても、きっとどこかで心が折れてしまうと思ったんです。

両親に相談したり考えながら、じゃあ大学で何を勉強すればいいんだ?と考えていると、「自分の好きなことはどうだろう?」という思いが浮かび上がりました。そして、芸術関連の学部を探していくと、理系かつ芸術分野が含まれる学部がありました。これまで勉強してきた理系の知識も必要ですし、得意な絵も生かすことができる。“ 行きたい大学 ”という明確な目標ができると、あとは「絶対ここに行きたい」という思いで勉強をしました。「モチベーションがある」というのはとても大事だなと実感したできごとです。

あと一つ。この時期も含め、イラストはずっと描き続けていたんですね。受験直前期でもネットに投稿していました。今思えば、ある意味「逃げ」で描いていたところもあると思います。ですが、イラストを描くことが、受験に迷いがあったときも含めて僕の支えになっていたような気がします。

イラストレーターの着地点を探して―大学時代

イラストレーターになりたいな、なれるかも?と思い始めたのは、『君の膵臓をたべたい』(住野よる著/双葉文庫)の表紙のお仕事をいただいたときです。大学2年生でした。それからありがたいことに、次々とお仕事をいただくようになったので、大学在学中は、勉強しているか、絵を描いているかでしたね。

少しずつ僕の絵を知ってくださる方が増えてきて、「絵を描くことを仕事にできるかもしれない」と思うようになったのもこの頃です。けれど、本当に生涯この仕事だけで生きていかれるのか? 副業ならできるかな?

それともすっぱり辞めてしまおうか…というようなことをずっと悩んでいました。

幸い大学の4年間は「勉強」というやることがあるので、それと同時に、“イラストレーターという仕事の着地点”を見極めたいとも考えていました。

自分の目指した道を正面から向き合って歩んでほしい―映画を観る後輩たちへ

僕は飽き性なところがあり、同じことをずっとしているのはあまり好きではないんです。たとえば絵を描くときも、ちょっとずつ違うテクニックや目標を取り入れたいと思っています。試行錯誤を含めて楽しんでいるので、絵に関しては「失敗したらどうしよう」という感覚はあまりありません。今回、初めて映画を監督することになりましたが、慣れ親しんだイラストとは異なる世界で、初めての経験がたくさんあります。ですが、初めてのことに対する不安よりも、ワクワク感の方が大きいですね。

映画監督という仕事は、イラストレーターのような一人でもくもくと手を動かすというものとは異なり、誰かに指示を出すことの方が多いです。昔から、両親には「一番上達する方法は人に教えることだ」「教えられないのは自分がわかっていないということだ」ということをよく言われていました。学生のときにはその意味があまりわかっていなかったのですが、今は本当にそのとおりだなと感じています。自分がわかっていることでないと言語化できず、人にも的確な指示ができません。勉強も映画監督も同じだな、と最近よく感じます。

ここまでの道を振り返ってみると、自分でつかみとったというよりは、「めぐってきた運」だと感じています。もちろん、最初に種を蒔いたのは自分ですが、それに目を止めてくださった方がいて、その芽がどんどん大きくなって、今ここにいる。映画 「サマーゴースト」には、たくさんのキャラクターが出てきますが、共通しているのは、現実が必ずしもうまくいかないかもしれないけれど、それでも前を向いて生きていこう、というメッセージなんです。受験も、自分が志望した場所に行くということは、誰かを蹴落としたり、誰かより上に行こうとしたりすることでもあって、こう言葉にしてみると残酷なことをしているようにも思うのですが、でも、その先に自分のかなえたいことがあって、それは何に変えてもやらなくてはいけないことなわけですよね。辛いことがあっても、そこに真正面から向き合って歩んでほしいという強いメッセージを、この物語に込めました。映画を通じて、何か伝わるものがあればいいなと思っています。

イラスト

「悠久の過去」

進路に悩んでいた高3の12月。イラスト投稿サイトにアップしたこのイラストが、ランキングで1位を獲得した。フォロワーがフォロワーを呼び、多くの人が「loundraw」の名を知ることになったきっかけの一枚。

表紙イラスト

『君の膵臓をたべたい』

(住野よる 著 双葉文庫)

のちに実写映画・アニメ映画化もされたこの作品の原作本表紙を手掛けたのは、大学2年生のとき。無名作家と無名イラストレーターの手による本だったにもかかわらず、印象的なイラストも話題を呼び、300万部を超える大ベストセラーとなった。

小説

『イミテーションと極彩色のグレー』

(loundraw 著 KADOKAWA)

イラストレーターという枠に収まらず、多彩な活動を始めたloundrawさん。その活動の一つが小説の執筆。“イラストレーションの表現の壁を越える”手法に「言葉」を選び、多感な時期の少年と少女の心の揺れを、イラスト同様精緻で細やかな表現で描く。

loundraw初監督作品「サマーゴースト」

期待に応えようとするほどに、自分が自分でなくなっていっていく―。そんな思いを表現したくて描いた1枚のイラストから、ある不思議な日々を過ごした少年少女のひと夏の物語が生まれた。公開は、2021年11月12日。本誌表紙裏もぜひ見てほしい。

https://summerghost.jp/

「一番近くて遠い星」

「サマーゴースト」のもう一つの世界を描いたZ会のコンセプトムービー。この2作品には、不確かな未来に向き合うすべての人達へ向けて“光が照らす未来へ、世界はつながっている”という共通のメッセージが込められている。

https://www.zkai.co.jp/home/cm/summerghost/