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<あなたのまわりのサイエンス>

集中力と継続力を発揮するしかけをつくる

秋から冬にかけては、夜も長くなり、なにかにじっくりと取り組むのに適した季節。そこで今回は、集中力と継続力をアップさせるしかけを考えてみたいと思います。 (Z会小学生コース保護者向け情報誌『zigzag time 4・5・6年生』2014年10月号)

【2015年4月9日】


 

脳はけっこう乗せられやすい―集中力と継続力を発揮するしかけをつくる

 
 「時間を忘れるほど夢中になった」という経験は、皆さんにもあると思います。何もかも忘れて熱中することを「没頭」とか「はまる」とかいいますが、そのときの心の状態を研究する学問分野があります。
 ハンガリー出身で米国などで活躍しているミハイ・チクセントミハイという心理学者がいます。彼は、若い芸術家たちが、お金にならないのはわかっていながら絵をかくのに没頭している姿を見て、「なぜ彼らはそこまで夢中になれるのだろう」と考えました。いろいろな実験などを行い、彼は「フロー理論」という考え方にまとめました。
 この理論によると、人が没頭するのは「やっている作業そのものが楽しいから」。
 「お金や得のためにやる」のでなく「やるのが楽しいからやる」。そんな作業をしているとき、人は没頭するのだといいます。しかも、その作業が“ちょっとだけ難しい”と、没頭しやすいこともわかりました。簡単すぎると「余裕すぎてつまらない」と飽きてしまうし、難しすぎると「これは手に負えない」とあきらめてしまいます。「何とかなるかな」ぐらいの難しさの作業に挑むことが、没頭する条件の一つというわけです。
 「勉強するのが楽しいから勉強する」という状態で勉強ができているお子さまは、とても素晴らしいことだと思います。でも実際は、「テストがあるから勉強する」というほうが多いかもしれません。その心の状態では勉強にはまるまではいかないでしょう。でも、テストのためというのも立派な勉強のモチベーションだと思います。没頭までしなくても、ものごとに集中するための方法はあります。

集中できない原因を考えて 集中力を高める

 気持ちが何かに集中するということは、気持ちがほかの何かに散らないということ。逆に、どんなときに人が“気が散る”状態になるのか考えれば、集中力アップの方法が見えてきそうです。
 こんな状況を思い浮かべてみます。喫茶店で本を読んでいるとき、隣のテーブルに座っている知らない二人が、「この前、○○さんに会ったのよ」「あら、○○さん! 珍しいわね」と話しています。何でもないような会話ですが、もし、この「○○さん」が偶然あなたの名前と同じだったとしたら。多分「○○さん」の名前が耳に入ってくるたび気になって、読書への集中力が途切れてしまうことでしょう。
 人は、自分が興味をもっていたり、自分に関係していたりする情報が入ってくると、その情報に邪魔されて気が散ってしまうもの。仮に、喫茶店での二人の会話が、あなたに全く関係のない話であれば、耳に入ってくることもなかったでしょう。集中しているときの脳は、いつもより限られた部分だけが活発になるといいます。
 ここからいえることは、集中して勉強などに打ちこみたいときは、なるべく集中する対象以外に自分の関心が移らない環境を作ることです。本当に集中したいときは周りに知っている人がだれもいないなかで過ごし、情報や知識を得たいときは知り合いと一緒に行うなどのメリハリをつけるといいかもしれません。

継続力アップの鍵は 脳を“乗せる”こと

緑の円内は脳の奥の「大脳基底核」という場所。「やる気のスイッチ」といえる淡蒼球は、この中にある。同じく大脳基底核にある「線条体」という場所は体への刺激を伝えるが、そのときの信号が淡蒼球にも届いて“スイッチオン”になるという。

 「よしやるぞ!」などと心に決めても、なかなか長続きしないこともあります。「やる気」を長続きさせるには、どうすればよいのでしょうか。
 脳のしくみに詳しい東京大学准教授の池谷裕二さんは、『のうだま―やる気の秘密』(上大岡トメと共著、幻冬舎)という本の中で、脳の「淡蒼球」という小さな部分に注目して、こう書いています。「淡蒼球は『やる気』『気合い』『モチベーション』など、日常生活において大切な基礎パワーを生み出す脳部位だといわれています。(中略)淡蒼球が動き出すためには、外からの刺激が必要です」。
 淡蒼球をはじめとする脳は、けっこう“乗せられやすく”また“だまされやすい”性格のよう。たとえば、「やる気が出ないなぁ」とウダウダしているときは、無理にでも行動を始めてみる。つまり、とにかく体を動かしてみることが、やる気を起こす鍵だといいます。動物は脳より体のほうが先にあったのだから、「やる気が出たからやる」のでなく「やるからやる気がでる」という順序のほうが正しいというわけです。
 また、淡蒼球の“上司”に当たる「海馬」という場所を刺激することで、淡蒼球はつられてスイッチオンされるといいます。海馬は経験を蓄積して知恵などに変える大切な場所。しかし経験に慣れていくと、海馬がはたらかなくてもすんでしまいます。そこで、ちょっと新鮮な経験を脳に与えてやると海馬は刺激され、淡蒼球のスイッチもオンになるといいます。

体を動かさなくても、体が動いているという感覚があるだけで、脳が活発になることが脳の研究でわかってきた。電車に乗っている時、読書や勉強に集中できるのも、このことが関係していると考えられる。

 ほかにも、「ごほうび」を利用することや、成功する自分に「なりきる」ことなども、淡蒼球を動かす方法と、池谷さんは話しています。
 これらのポイントを勉強にあてはめてみるとどうなるでしょう。とにかく手や体を動かしやすくするため、毎日、決まった時間帯または時間分、勉強することを決めておく。また、新鮮な経験を得るため、勉強する場所を一つでなくいろいろもって、「今日はここでやろう」と場所を変える。この辺りが、長続きさせる方法になりそうです。
 集中力と継続力を高めて、ぜひ、秋から冬にかけて親子ともども充実した日々をお過ごしください。

漆原 次郎(うるしはら・じろう)

1975年生まれ。出版社で8年にわたり科学書の編集をした後、物書きに。小難しいけれど魅力的な科学・技術の世界を伝えています。
小話ブログ「科学技術のアネクドート」(http://sci-tech.jugem.jp)日々更新中。


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