クリティカル・シンキング/みんなの意見 7月の回答選と解説

中2
中2 10月(CLT2F1)
『美術の核心』からの出題

今回の課題

今回のクリティカル・シンキングは以下のような課題だった。

問題文に「そのゆがみ方によって予期せぬ表情や、焼き具合の偶然から生まれた個性的特長を発見していくこと」とありますが、こうした〈偶然性の美〉の例だとあなたが思うものを取り上げて紹介しなさい。全体を二〜三文程度にまとめること。

今回は、〈偶然性の美〉だと思うものを考えて紹介するというお題だった。
投稿してくれたみなさんそれぞれの感性でとらえた個性的な〈美〉紹介されており、いずれの回答もちょっとしたエッセイのような読みごたえがあった。
それではZ会に届いた回答から、目を引いたものを紹介していこう。

今回の回答選

櫻井音葉さん

去年の夏ぐらいに、染物の体験をしました。布に染料を染み込ませるのですが、最初からどんな模様ができるのか決まっているわけではなくて、何色かの絵の具をトレーに入れて適当に箸などで混ぜてそれをそのまま布に写すという染め方でした。普通の決まった模様や色などではなくて、自然のままにできた模様を写し取るのは奇跡でもあり、またはこういう運命なのかということも感じられて新鮮だったし、決まった模様とはまた違った美しさを味わうことができました。

 

まずは問題文にあるような、人が作品を作る中で生まれる〈美〉についてあげてくれたものから紹介しよう。櫻井音葉さんがあげてくれた染物は、偶然が生み出す色や模様を楽しむ芸術といえるだろう。作品になる瞬間にふれた感動が伝わってくる文章である。

AMさん

私はこけしがその代表的な例だと思う。こけしは形は一定だが、その表情は職人がひとつひとつ丁寧に書いている。それによって、こけしひとつひとつに、様々な表情が浮かび上がり、世界中の誰かの手元に置かれる。予期せぬ表情が出るのもまた味であり、偶然性の美だと言えるだろう。

 

これも人が何かを制作する中で生まれる〈美〉をとりあげたものだが、こちらは〈職人の手作業〉に着目していて興味深い。仕上がりまで人の手で作られたものにも予期せぬ何かが入りこんでいる、という点をとらえたAMさんの感性にはたいへん感心させられた。

たかたかさん

漆で出来た漆器は、使い始めて10年くらい経ってから色が映えてくる。本人の使い方、洗い方、食べ方で、形は大分変わり、その人の性格が表されると思う。

 

たかたかさんがあげてくれたこの回答も人が制作したものにかんするものだが、〈作った人の手を離れて何年も経ってから生まれる美〉というのが、他の回答にはない視点でたいへん独自性がある。

石井愛菜さん

母が毎日作ってくれる料理は偶然性の美だと思います。料理というものは、その日その日の火加減や味付けで毎日変化するので、全く同じものは作れません。これも、芸術と同じで、自然と人間の共同作業から生まれた偶然性の美だと思います。

 

日常生活の中で生まれてくるものの美しさをとりあげてくれたのは石井愛菜さん。毎日作られる料理が「偶然性の美」と呼べる理由がしっかりと書かれていて、説得力のある回答になっている。

ヒヨコさん

私の思う〈偶然性の美〉は、写真だと思います。写真は、写る人や物、背景が毎回違います。同じものは撮れないし、いろんな偶然で写真の見え方が変わるからです。

 

非常に身近なのでかえって気づきにくいが、ヒヨコさんが指摘してくれたように、写真は同じものを再び撮ることはできず、さまざまな偶然が重なることで一つの作品となるものといえる。写真についてはマカロンさんもとりあげてくれたほか、supica*さんも回答の中でふれてくれていた。

茅野カエデっちさん

旅行に行ったときに山の上から見た夜景が、すごく印象に残っていて、今でも鮮明に覚えています。町がまるで昼とは違う表情を見せ、町を照り囲んでいる光ひとつひとつが、ニコニコ微笑んでいるように見えたことです。

 

何かを作ろうとする中で生まれたものではなく、「夜景」というある意味〈自然に〉できあがったものの美しさをとりあげてくれたのは茅野カエデっちさん。夜景は当初から意図して作られたものではなく、そこで暮らす人々が集まることで生まれたものなので、これも〈偶然性の美〉のひとつといえるだろう。

ニャンの助さん

私は虹が〈偶然性の美〉だと思います。なぜなら、虹は雨が降った後すぐに太陽が出て光を屈折させないと見ることができないからです。それによって空に映し出されるほんの数分の美しい七色の光はまさしく〈偶然性の美〉と言えると思います。

 

自然物をとりあげてくれた回答も紹介しよう。虹をあげてくれた回答はいくつかあり、中でもこのニャンの助さんの回答は、虹と偶然性の関係をしっかりと説明できており、まとまりのよいものとなっていた。

クールミントさん

私の思う「偶然性の美」は、木目である。木目は、それこそ人が何も手を加えていない中で人の顔などの「他の物」に見える様な構成で生えている事がある。その美しさは、どこかやわらかい温かみがある「偶然性の美」である。

 

木が作り出す模様の美しさをあげてくれた人も何人か見られた。クールミントさんのこの回答は、「やわらかい温かみ」と、木から感じられる美について具体的に説明できている点がすぐれている。

ゆっくりyukiharaさん

AIが作曲した音楽。一曲ずつ規則性にのっとってランダムに作られる曲は、それぞれに個性と味を感じる。ある意味、型を破ってくる点で人間以上にクリエイティブであると感じた。

 

自然物とは対照的なものをとりあげたゆっくりyukiharaさんの回答を紹介しよう。AI(人工知能)は人が作り出したものだが、それが無作為に作った音楽は、人の意図を超えた〈偶然性〉に満ちた作品といえるだろう。そのような音楽は新鮮な旋律をもっているのだと思う。

fさん

私は、スポーツをしている人のユニホームの汚れが偶然の美だと思う。意図的に汚そうと思っているわけではいが、汚れたユニホームは努力の証だからだ。

 

今回のトリは、〈逆説の美〉ともいえる美しさをとりあげてくれたfさん。ある人には単なる汚れでも、それが意味をもつことで美しいものに変わるという視点が非常に斬新である。

Z会のつぶやき

 

今回の課題は、問題文でとりあげられた事柄と類似、もしくは関連する事柄を考えて紹介する、というもの。読解力と発想力の両方が試される課題である。このような課題では、必ずしも問題文にあるものと似た事柄をあげる必要はなく、自分なりの切り口から考えてかまわない。ただし、今回の〈偶然性の美〉のような与えられたテーマから離れないようにすること、また、読み手が納得するような説明ができるものとすることが大切である。
今回の課題はやや難しかったのではないかと考えていたが、的確かつ個性的な回答が多く寄せられ、皆さんの発想力の豊かさに感心させられた。論説文を読んだ際に、自分で具体例など関連する事柄を考えてみるのは、文章理解のためにも非常に役に立つので、ときどきは実行してみるとよいだろう。