やさしいねガラス通して浴びる日を受けて伸びてく部室のふたば
とある生徒のみー

今回のクリティカル・シンキングは以下のような課題だった。
問題文中のBの短歌(「やさしいね……」で始まる俵万智の短歌)を参考にして、次の条件で短歌を一首作りなさい。
・初句は「やさしいね」で始める。
・日常生活の中で発見したことを詠む。
それでは、みなさんが送ってきてくれた回答から、目を引いたものを紹介していこう。
やさしいねガラス通して浴びる日を受けて伸びてく部室のふたば
やさしいねからの夜空でただひとつ皆を見守るそが色の月
次は月をテーマにしたレモンムーンさん作品。「からの夜空」「そが色の月」という個性的な表現が光っている。大きな「空」の中、「ただひとつ」存在する、という対比も見事で、情景を非常に巧みにとらえている。
やさしいね残る寒さに負けぬぞと私のまわりに春の風ふく
次は春の風をテーマにしたものから。このみかんにゃん子さんの短歌は、三寒四温の季節の様子を、擬人法を用いて表現したところがユーモラス。早春のひとこまが生き生きと伝わってくる。
やさしいね春風の歌灰色の雨雲もまたあたたかく見え
春風をテーマにしたものからもう一つ。春の雨雲は、冬のそれとは似ているようでやはり違う。計算機さんのこの作品は、季節を繊細にとらえる感じ方が伝わってくる。「見え」という連用中止法も効果的に用いられている。
やさしいね昨日と同じこの世界自分がここにいるという事
ここまでに紹介したものとは異なる視点から作られた作品も紹介しよう。シュレディンガーの猫さんのこの作品は、ふとした瞬間に浮かんだ気づきを巧みに表現している。第二・三句と第四・五句の対比も見事。
やさしいね落ちてるゴミを拾いゆくいつもはいたずらしている君が
次は身近な人を描いた作品から。じがじがさんのこの作品は、倒置法が非常によい効果をもたらしている。「君」を意外に、そしてほほえましく思う気持ちが伝わってくる。
やさしいねポトンと落ちたえんぴつを拾い合うのが常な教室
学校でのひとこまを描いたものからも紹介しよう。日常の中の具体的な行為を短歌にするのは実は結構難しい。工夫しないと標語のようになってしまう。はるコナンJUMPさんのこの作品は、言葉の並び方がよく考えられていて、さりげない行為のあたたかさが伝わってくる。
やさしいねみんなで数える大縄跳び敵を忘れる他クラスの声
学校での出来事を描いたものからもう一つ。「大縄跳び」の数える声、それも「他クラス」のものからやさしさを感じとっている。作者のさかたーんさんの感じ方の豊かさ、繊細さが伝わってくる作品である。
今回は短歌を詠むというちょっと変わった課題だったが、多くの人が積極的に取り組んでくれて、たくさんの作品が集まった。課題どおりのやさしさにあふれたもの、思わず笑ってしまったユーモラスなものなど、多彩な作品が寄せられ、皆さんの言葉の豊かさをうかがうことができた。
短歌を詠むのは初めて、という人も多かったのではないだろうか。今回は、短歌の作り方について簡単にふれておこう。
まず必要なことは、あまり肩肘張らないこと。気軽な気持ちで、少し感覚を敏感にして、身近ものに目を向けてみよう。ちょっとした風景や出来事など、小さな物事のほうが短歌にしやすい。また、ふと心に思ったことを詠んでもよい。
最初はすべての句がそろっていなくてもよい。俳句のように五・七・五の形でも、二句ぐらいでもよい。そこに言葉を足してみて、さらに語順を入れ替えるなどして、だんだんと短歌の形にしていこう。
ポイントは、描写を広げすぎないこと。ふとした瞬間の思いや目に留まったものをいかに伝えるか、ということに集中して言葉を考えてみるとよいだろう。
日の光のあたたかさをテーマにした短歌はいくつか見られたが、中でも優れていたのはこのとある生徒のみーさんの作品。ガラス窓からさしこむ光と、その先にある小さな「ふたば」。言葉の並べ方がたいへん上手で、情景が自然に目に浮かんでくる。