クリティカル・シンキング/みんなの意見 7月の回答選と解説

中1
中1 2月(CLT1J1)
「蛍川」(『蛍川・泥の河』)からの出題

今回の課題

今回のクリティカル・シンキングは以下のような課題だった。

竜夫と圭太のように、友達と同じ人を好きになってしまった場合、あなたならどのように行動すると思いますか。そのようにする理由とともに、二文程度で説明しなさい。

今回は、小説の登場人物の心情などを参考にしながら、友達と同じ人を好きになってしまった場合の自分の行動について、考察してみるというお題だった。
似たような経験をしたり聞いたりしたことのある人はそれをもとにして、経験のない人は自分なりに想像をふくらませて、自分の考えをまとめることができただろうか。
それではZ会に届いた回答から、目を引いたものを紹介していこう。

今回の回答選

なぉさん

私だったら正直にあなたと同じ人が好きと言います。嘘をつくと友達の前で好きな人と喋りづらくなるだろうしそこで喧嘩になるのも嫌なのでだったら正直な事を言って喧嘩になった方がいいと思います。

 

まずは「同じ人を好きになったことを友達に伝える」という意見の紹介から始めよう。なぉさんの回答のよいところは、行動の理由をていねいに説明しているところである。〈正直に言って喧嘩になったほうがよい〉と書いているが、安心して喧嘩ができるのは相手との間に信頼関係があることの証拠でもある。思っていることを正直に言い合える友人は貴重な存在だ。そうした友人を、これからも大切にしてほしい。

ごまめさん

私は、正直に友達に伝えて、自分が譲ると思います。なぜなら、友達と好きな人が一緒であることを知って、そのまま自分の中で諦めてしまうと心がすっきりしないし、友達に自分の気持ちを伝えると、素直に友達のことを応援できるからです。

 

ごまめさんも「友達に伝える」派の一人だが、「伝える」からさらに踏み込んで「自分が譲る」という意見を述べていた。〈そのまま諦めてしまうとすっきりしないが、自分の気持ちを伝えれば素直に友達を応援できる〉という内容から、ごまめさんは自分の内面をきちんと見つめられていることが伝わってくる。複雑な気持ちを冷静に分析して文章に表現できるのは、立派なことである。

綾丘さん

私が友達と同じ人を好きになってしまったら、友達に自分の思いも言えず、好きな人を諦める事もできないと思います。理由は友達に打ち明ける勇気が私には無く、好きな人を諦める勇気も無いからです。

 

一方で、「友達に伝えない」という意見も多かった。「友達に自分の思いも言えず、好きな人を諦める事もできない」という回答からは、綾丘さんの正直な気持ちが伝わってくる。綾丘さんの回答のよいところは、行動の理由を分析して「勇気がない」という意見を導き出しているところだ。自分の気持ちを素直に見つめていて好感がもてる。

キムムッチさん

もし、自分が竜夫と圭太のように、友達と同じ人を好きになってしまっても普段と変わらないいつも通りの行動をとっていると思います。なぜなら、その友達にライバル心をむき出しにしたところで、好きな人に好かれるわけでもなく、ただただ嫌な思いをしたり、後悔をしたり、人間関係が悪化するだけだと思うからです。

 

キムムッチさんも、「友達に伝えない」派の一人である。この回答も、行動の理由をていねいに説明しているところが素晴らしい。〈友達にライバル心をむき出しにしたところで、好きな人に好かれるわけでもない〉というのは、冷静な分析である。自分の感情に流されることなく、落ち着いて考察を進めているところが高く評価できる。

にゃんこさん

私は、友達の前でなるべく好きな女の子と話さないようにすると思います。理由は、私は多分、友達と好きな人が同じだったら、恋愛よりも友情の方を取ると思うからです。

 

〈友達の前でなるべく好きな人と話さないようにする〉と述べてくれたのは、にゃんこさん。目を引いたのは行動の理由を説明した部分で、「恋愛よりも友情の方を取る」とはっきり宣言していた。こうした正解のない問いに対して、自分の考えをきちんと持っているのは素晴らしいことだと思う。また、にゃんこさんも良い友人を持っている人なのだろうと想像した。

まりきこさん

私は、思い切って告白します。振られてしまったらスッキリ諦められるし、友達を応援できるからです。

 

友達に対する行動ではなく、好きになった人に対する行動から書き始めていたのは、まりきこさん。〈思い切って告白する〉というところからは積極的な人柄を、「友達を応援できる」というところからは優しい人柄を感じることができた。同じような状況で、「友達を応援する」と言えない人も多いのではないか。まりきこさんのように言い切れるのは、素晴らしいことだと思う。

ももさん

私はその状況をプラスに考える。理由は好きな人が同じだとその人について語れるし新たな面を知れるなど、友情も恋愛も諦めずにいられるからだ。

 

「友達に伝える/伝えない」という回答が多かった中で、「その状況をプラスに考える」というももさんの個性的な回答に引き付けられた。仮に友情と恋愛の一方を選ばなければならない状況に置かれたとして、「こちらを選ぶ」と簡単には言いきれない人が多いのではないか。ももさんの回答にも、一方を選ぶことの困難さを承知したうえで自分なりに考えを進めていこうとする姿勢が感じられ、好印象をもった。〈新たな面を知ることができる〉というのも、「なるほど」と思わされる回答だった。

Z会のつぶやき

 

夏目漱石の『こころ』という作品がある。「私」と「先生」との交流が描かれているのだが、作品の後半は「先生」から「私」に送られてきた手紙(遺書)の体裁をとっている。手紙には「先生」の過去がつづられていた。「先生」は若かったころに、同じ女性を好きになった親友から、その女性に対する気持ちを打ち明けられたことがあった。さて、親友の気持ちを知った「先生」は、そのあとどのような行動を取ったのだろうか。ここでは、その内容に触れることは控えよう。『こころ』は高校の教科書にも取り上げられる有名な作品だ。みなさんもいつか読んでみてほしい。
さて、今回の課題も、いろいろな説明のしかたが可能である。たとえば、「どのように行動するか」という問いかけに対しては、「友達」に対する行動について説明する、「好きになった人」に対する行動について説明する、という二つの方向性を、まず想定することができる。あるいは、そのどちらでもなく、「別のだれかに相談する」「同じような経験を扱った小説を読んでみる」などの説明のしかたもできるかもしれない。いや、「○○のような説明ができる」などと書いてしまうこと自体、みなさんの自由な考察を妨げてしまう危険性を含んでいるだろう。
「考える」ことの可能性は無限だ。走ったり語ったりすることがそうであるように、「考える」ことにもまた一定の忍耐が求められるときがある。でも、そこで投げ出さずに、考えることを続けてみよう。休みながらでもよいし、だれかの力を借りながらでもよい。今まで気付かなかった世界がみなさんの目の前に現れるときが、きっと来ると思う。