クリティカル・シンキング/みんなの意見 7月の回答選と解説

中1
中1 7月(CLT1D1)
『うつくしい子ども』からの出題

今回の課題

今回のクリティカル・シンキングは、問題文に述べられた筆者の考えをふまえて以下について答える課題だった。

「なにか変わらないものを一生の仕事にしてはどうだろうか」と親しい大人からアドバイスを受けたら、あなたはなんと答えますか。二文程度で説明しなさい。

今回は、問題文のとうさんの言葉を受けて、〈変わらないものを一生の仕事にする〉ということについて考える課題だった。
みなさんの〈仕事に対する考え方〉〈世の中に対する見方〉〈「変わらないもの」についてのとらえ方〉などがうかがえる、さまざまな切り口の回答が寄せられた。みなさん、投稿ありがとう。掲載が遅くなってしまい、たいへんお待たせしました。
Z会にとどいた回答から、目を引いたものを紹介していこう。なお、今回も「正解のない問」なので、とうさんのような提案に対して賛成した人も、反対した人も、賛成も反対もしなかった人も、誰もまちがっていない。
「こういう見方もあるんだ」「こういうとらえ方もできる」というちがいを楽しむとともに、読みながら頭の中で、「(意見を受けて)それなら自分はこう考えるなー」というのを考えてもらえるとうれしい。

今回の回答選

わいおーさん

「今、日本では次々と新しいものが発明されている。
だから、変わらないものを自分の仕事にするのはむりじゃないか。」
と、答える。

 

めまぐるしい社会情勢の変化、めざましい技術革新が起きている現代に生きるみなさんらしい回答だ。わいおーさんだけでなく、今回〈今の時代に変わらないものなどないのではないか?〉という意見を寄せてくれた人が多かった。みなさん、社会の動きに対して敏感だなあと感心した。
同じ方向性の意見を、もう一つご紹介しよう。

T.Mさん

そうしたいところなのですが、将来、今ある仕事のほとんどが新しい仕事に変わってしまうと聞きました。
変わりにくく一生できるような仕事の例としてどんなものがありますか?

 

T.Mさんだけでなく、〈時代の変化が激しい現代では、一生続けられる仕事などないのではないか?〉という意見も多かった。

昨年末(2015年末)に、株式会社 野村総合研究所が、イギリスのオックスフォード大学のマイケル・A・オズボーン准教授とカール・ベネディクト・フレイ博士の共同研究から、「日本の労働人口の約49%が、10年から20年後には、技術的には人工知能やロボット等で代替可できるようになるのではないか」という発表をして、報道されたことがあった。耳にした人もいると思う。
(気になる人は調べてみよう。ただし、野村総合研究所も断っているとおり、あくまでもこれは技術的に可能かどうかをデータ算出した研究結果の一つである。
実際にそうなると断定したものではないので、未来あるみなさんは、あくまで参考として見てほしい。
これから大人になる自分が、どのようなことを学び・どのような力をつけていこうか、と考える一つの材料になるだろう)

さて、T.Mさんから、「変わりにくく一生できるような仕事の例としてどんなものがありますか?」という質問をいただいたので、みなさんの回答から、二つご紹介しよう。

nonnonさん

じゃあ、わたしは幼稚園の先生になりたい。
子どもの成長に関わる人たちはいつでも必要だし、小さい子もすきだから。

 

nonnonさんは「なにか変わらないものを一生の仕事にしてはどうだろうか」というアドバイスに対して、「幼稚園の先生になりたい」という答え投稿してくれた。nonnonさんの「子どもの成長に関わる人たちはいつでも必要」という意見はもっともなものだ。nonnonさん、夢に向かってがんばってください。

Iraka(@_@)さん

私は、「音楽に関わる仕事につきたい」と言うと思います。つけるのは、ほんの一握りの人間ですが、音楽という芸術そのものは、そして、音楽で人を喜ばせたいという思いは、いつの時代も変わらないと思うからです。

 

Iraka(@_@)さんは、「音楽に関わる仕事につきたい」と投稿してくれた。「音楽という芸術……音楽で人を喜ばせたいという思いは、いつの時代も変わらない」と、〈変わらないもの〉〈一生の仕事〉にできる理由を明確にしてくれていてわかりやすい。狭き門かもしれないが、Iraka(@_@)さんの関わった音楽を耳にできる未来を楽しみに応援している。

ご紹介したのは二つだが、nonnonさんIraka(@_@)さんのように、〈仕事の目的や意義〉を起点にして考えると、「社会の変動が激しい現代に、一生続く仕事なんてあるのかな?」と思った人も、何か思い当たる仕事があるのではないだろうか?

さて、「なにか変わらないものを一生の仕事にしてはどうだろうか」というアドバイスに対して、もう少し別の角度から回答してくれたものもご紹介しよう。

水族館の海老フライさん

私は飽きっぽい性格だから、それは難しいかもしれないな。人々のニーズに答えられるようにどんどん新しい商品を開発したり、世界の様々な動きに左右されながらも必死に仕事をしたりするほうが好きだと思うんだ。

 

水族館の海老フライさんは、自分の性格ふまえて、「なにか変わらないもの」を仕事にするのは自分に合わないのではないかと答えてくれた。たった二文の文章だが、自分の性質を分析して意見を述べているので説得力がある(世の中にあわせて新しいものを生み出すという夢がかなえられるように、かんばってね)。
水族館の海老フライさんの言うとおり、将来を考えるときには、自分の向いているもの、興味のあるもの、自分の能力、将来の目標など、〈自分自身について〉知ることも大切だろう。

あまりてなどかさん

まず「そうですね。」と同意する。そして「変わらないものなら続けることができますね。だから、コツコツと努力を重ねられるという私の長所が発揮できるような、素敵な仕事になると思います。」と答えたい。

 

あまりてなどかさんは、同じく自分について分析して、〈変わらないもの〉を仕事にすれば、「コツコツと努力を重ねられる」という自分の長所を発揮できると説明してくれた。
確かに、変化の激しい世の中だが、時間をかけないと生み出されたり、洗練されたりしないものだってあるだろう。あまりてなどかさんの長所、大切にしてください。

更にちがった「なにか変わらないものを一生の仕事にしてはどうだろうか」というアドバイスに対する回答をご紹介しよう。

世界一難しい恋CR7さん

それもありだと思う。でも、その変わらないものが嫌いだった場合、長くは続かないと思う。また他の事もやって色々知るのもいいのではないか。

 

世界一難しい恋CR7さんは、〈変わらないもの〉もよいけれど、〈変わらないものかどうか〉という点だけにこだわるのではなく、〈自分の好きなこと〉であるかどうかという視点や、初めから一つに決めずに「他の事もやって色々知る」ということも大切ではないかという考えを述べてくれた。確かに、複数の視点からいろいろ比較して考えことで気づくこと、わかることは多いという指摘はもっともだ。

げんそじんさん

確かに、不動のものを仕事にするのは、一生それに打ち込むことができて良いかもしれない。ただ僕は、1つのものを集中的に考えるのではなく、多くのものについて色々な方向からよく観察し、それら全てから多くのことを学べるような仕事をしたいと思う。

 

げんそじんさんも「多くのものについていろいろな方向からよく観察し」それによって「多くのことを学べるような仕事」をしたいという思いを投稿してくれた。自分の可能性や成長のためには、いろいろなものにふれるのは大切なことだ。とてもうまく自分の考えを説明できているし、説明から自分を高めたいという前向きな姿勢が感じられてとてもよいと思った。

しかし、同じ仕事を続けることにも、次にご紹介する意見のような長所もある。

K.H.さん

僕は、「そうですね。」と答えます。なぜならいろいろと仕事が変わると、一つのことに集中できず、自分が本当に何をしたいのかわからなくなってしまうと思うからです。

 

K.H.さんは、先にご紹介した世界一難しい恋CR7さんげんそじんさんの意見とは別のポイントに注目して、〈変わらないもの〉のよさを説明してくれた。「いろいろと仕事が変わると、一つのことに集中できず、自分が本当に何をしたいのかわからなくなってしまう」という指摘はとても鋭いものだと思う。
なにか複数のことを同時にやろうとして、結局どれも中途半端で終わってしまったという経験は、誰しも心当たりがあるのではないだろうか?

世界一難しい恋CR7さんげんそじんさんの言うとおり、いろいろな視点で見たり、いろいろな自分の可能性を広げていったりすることはもちろん大切なことだ。
だが一方で、K.H.さんの言うとおり、何が一つのことに決めたからこそ、時代の流れに翻弄(ほんろう)されずに、集中して大きなことを成し遂げられる場合も大いにありうるのではないだろうか。

もう少しちがう角度の回答もご紹介しよう。

アリエルミさん

でも、何も変わらないと、いろんな面で進歩することができないから、少しずつでも進歩していくものを仕事にしたいと思う。

 

アリエルミさんは、変わらないものを仕事にしたら、進歩できないのではないかという意見を寄せてくれた。他にも、変えられないものはつまらないから仕事にしたくないという回答が複数寄せられた。確かに、〈変わらないもの〉というのを、毎日毎日同じ「作業」を繰り返す仕事だとイメージすれば、それはつまらないことだと思う。

R9meganeさん

変わらないものも確かに大切だが、変わらなければ、どんどん廃れていってしまうものもあるのではないかとも思う。

 

R9meganeさんは、変わらないものは大事だけれど、変わらなければ廃れていってしまうものもある、という意見を投稿してくれた。時代の流れにあわせずに同じことを繰り返していたら、仕事自体が世の中に受け入れられないという意見で、これも一理あると思う。

今回の課題にある、〈変わらないもの〉〈一生の仕事〉というのはとてもあいまいな言葉だ。だから、実は、人によって〈変わらないもの〉〈一生の仕事〉という言葉からイメージするものがちがうと思う。
アリエルミさんR9meganeさんは、どちらかどういうと〈仕事で行う作業・工程・できあがる商品〉が変わらないものを想定して回答してくれたのではないかと想像するが、もう少し別の考え方もできるので、ご紹介しよう。

キリトさん

医師になり、世界中の困っている人たちを一人でも多く助けて、同時に先人の知恵を生かし、新たな薬や治療方法などの研究をしていくという昔から変わらず、みんなから信用・信頼されるような職業に就きたいな。

 

キリトさんのなりたいという「医師」は、本当に古くからある職業だ。だから、変わらない仕事だと感じる人が多いと思う。しかし、キリトさんが指摘してくれたように、人を助けたいという思いや、みんなから信用・信頼されるような職業であるということは変わらなくとも、「先人の知恵を生かし、新たな薬や治療方法などの研究をしていく」という変わっていく面ももっている。「医師」という仕事の中に、〈変わらないものと変わるものの両方がある〉わけだ。このキリトさんの観察力が、とても優れたところだと思った。ぜひ、すてきなお医者さんになってください。

〈変わらないもの〉を〈仕事で行う作業・工程・できあがる商品〉だとして考えた場合には、そうした仕事は単調でつまらないものに思えるだろう。しかし、〈変わらないもの〉を〈目的や志が変わらないか〉というところに焦点をあてて考えた場合には、変わらない仕事は単調でつまらないとは断定できないし、世の中には変わらない仕事はたくさんあると考えられるのではないだろうか。

〈変わらない〉というのをどういう意味だと受け取るかによって、想像するものが変わってしまうというのが、とてもおもしろいし、注意が必要なことだと思う。

ココ シラナイさん

今世界はずっと変わり続けているけど、型を守り繋がっていくもの、その両方があってバランスが取れるんだよね。私はその「かわらないもの」を受け継いでいく仕事もいいなって思えたよ。

 

ココ シラナイさんは、変わらないものと変わるものの両方があって、世の中のバランスが取れているという点を指摘してくれた点が優れている。
例えば、先ほどご紹介した「先生」「音楽関係の仕事」「医師」というのは、どれも大昔からある仕事だけれど、その機能・目的・思いは変わらずに受け継ぐことが必要なものだろう。
一方で、変わるものを追い求めて何かを生み出す仕事も必要だ。
ココ シラナイさんの言うとおり、両方があるから、世の中のバランスが取れているのだろう。

とんちゃんさん

私は薬剤師という仕事に興味がある。もしそのような仕事に就いたら、変わらないものをどうやって守っていくのか考えながら過ごす覚悟を伝える。

 

最後に、ご紹介するとんちゃんさんの意見は、「変わらないものをどうやって守っていくのか考えながら過ごす」という意見がとてもおもしろいと思う。どんな仕事をするにせよ、問題になるのは〈仕事に対する姿勢〉なのかも知れない。
日々の仕事で発生する一つ一つをこなすことを最終目標にするのではなく、そうした具体的な何かをしながらも、〈変わらないもの・変えてはいけないもの〉を心の中にもち、それを守ることを最終目標として仕事をすることもできるだろう。
〈変わらないもの〉〈一生の仕事〉とは、何か具体的な職業ではなく、仕事をする人の心持ちにあるのではないか、ということをとんちゃんさんの意見から気づかされた。

Z会のつぶやき

 

今回は「一生の仕事」について考えるものだったが、こんなことを聞かれたのは初めてで、難しいと感じた人も少なくないと思う。「将来何になりたいのか?」と問われたことはあっても、「なにか変わらないものを一生の仕事にしてはどうだろうか?」と問われたことがある人はほぼいないと思う。

考えたこともないことを考えるのは、もちろん簡単なことではないし、まちがったことを答えたらどうしよう、という不安もあると思う。
でも、考え初めなければ、いつまでたっても考えは広がらない。

今回の課題についても、投稿してくれたみなさん、ここまで講評を読んでくれたみなさんは、なんとなく〈変わらないもの〉〈一生の仕事〉ということについて、何かしら自分の中に固まった考えや考えの芽ができたのではないだろうか。

まちがったっていいし、そもそもクリティカル・シンキングには正解はない。だから、まずは「考えること」を大切にして、毎月の課題をきっかけに自分の興味を広げてほしい。

こうした経験の積み重ねが、現実でいろいろな問題に直面したり、新しい何かを考えたり、人にわかってもらえるように説明したりするときに、きっと力になってくれるだろう。

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今回の講評はここまで。
投稿してくれたみなさん、ありがとう! 8月教材のクリティカルシンキングはお休みだけど、9月号教材からはまた課題を出している。ぜひ投稿してみてほしい。みなさんの回答を楽しみにしている。