クリティカル・シンキング/みんなの意見 7月の回答選と解説

中1
中1 4月(CLT1A1)
『あと少し、もう少し』からの出題

今回の課題

今回のクリティカル・シンキングは以下のような課題だった。

「僕」は桝井先輩の走りについて、これまで目にしたことのないものだと感じます。
「僕」と同じように、自分の能力を超えた圧倒的な技術や能力をまのあたりにしたあなたの体験を二文程度で説明しなさい。

今回は、〈圧倒的なものをまのあたりにした体験〉を書くことがお題だった。
二文程度という制限だったが、中身のつまった力作ばかりで、みなさんの文章力だけでなく興味・関心のアンテナの高さがうかがわれた。
Z会にとどいた回答から、目を引いたものを紹介していこう。

今回の回答選

小悪魔チェリーさん

私は、最高裁判所に見学しに行った時、的確に物事を判断して、どんな質問でも答える裁判官の能力を目のあたりにしました。すごく驚いて、私もあんなふうになりたいと強く思いました。

 

自分の目にした〈圧倒的なもの〉を説明するには、〈どのような点に圧倒されたのか〉を説明しないと、文章を読む人に理解してもらうことは難しい。小悪魔チェリーさんはその点をくわしく説明できていて、とてもわかりやすかった。ぜひその素敵な裁判官を目標にがんばってほしい。

みぃこさん

習っている習字の展覧会で、高校生の作品を見て驚いた。
筆の使い方で少しかすれている所や、力強く書く所などお手本顔負けの字だった。

 

みぃこさんの回答も〈どのような点に圧倒されたのか〉をうまく説明できている。単に「お手本顔負けの字だった」とするのではなく、〈どのような点が「お手本顔負け」なのか〉=「筆の使い方で少しかすれている所や、力強く書く所など」を説明している点がとてもよい。実際にその作品を見ていない人も〈どのような素晴らしい作品だったのか〉を具体的に想像できる。

サックJAPANさん

僕はそろばん教室に通っていて、その教室には4段を持っている人がいます。その人のそろばんからは、弾く時に聞こえてくる音が僕と違って、計算スピードや正確さも別次元で、僕は、「上には上がいる」という事を改めて痛感させられました。

 

圧倒された体験をとてもわかりやすく説明できている。中でも「音」の違いをとらえたところが、サックJAPANさんの観察眼の優れたところだと思う。この音の説明があることで、そろばんを弾く光景がリアルに浮かんできた。
文章で自分の体験を伝えるには、音、におい、手ざわり、味などの目以外から得られる情報を加えると効果的なことが多い。そうした要素があると、文章を読む人の頭に浮かぶイメージが平面的なものから立体的なものになる。
サックJAPANさん、そろばんのさらなる上達を目指してがんばって!

迅速果断さん

空手の見学の時に見た先輩の演舞は、周りの人の演舞とは違い、本当に闘っているのかと思わせるぐらいきびきびとしていて迫力があった。

 

「演舞(演武)」とは、ボクシングや柔道などの格闘技の試合とは違い、修練した型を人前で見せること。よって「闘い」ではないのだが、「本当に闘っているのかと思わせる」ものであったと説明することで、迅速果断さんが圧倒された理由がよくわかる。「きびきび」という擬態語の使い方も効果的。

スウィーツ姫さん

有名なオペラ歌手の歌を聴きに行った時、今までのどの音楽にも無かったこちら側に流れ出してくるような、なにかが紡ぎ出されていくような迫力を感じて、衝撃を受けた。

 

今回、声楽、ピアノ、エレクトーンなどの音楽に関する自分の体験を出してくれた人がとても多かった(どの回答も熱のこもったものだった)。その中で、スウィーツ姫さんの回答は、歌の「迫力」を「こちら側に流れ出してくる」「なにかが紡ぎ出されていく」と説明した点が見事。とても臨場感のある説明になっていて、文字を通してあふれ出てくる迫力を感じた。

まるリンゴさん

水泳のコーチが、イナズマのようにバタフライを泳いでいたのを見たことがあります。
あまりの迫力とダイナミックな姿に、くらっとしました!!

 

「イナズマのように」というたとえが「バタフライ」という泳法の「迫力」「ダイナミックさ」を表現するのにとても適している。まるリンゴさんの見た光景が目に浮かぶようだった。
ほかにも、うさこさんは上手な人のバタフライについて「まるで水と一体化しているよう」とした回答を投稿してくれた。こちらのたとえは、泳ぐフォームの美しさを想像できる表現で、これまたよい。
このように〈自分が強調したい内容に合うたたとえ〉をうまく選定することで、短い言葉でも読む人の想像力をかきたてることができる。

M.O.さん

絵の教室の体験に行ったときにデッサンをしていたら前に座っている人の作品が、とても素晴らしかった。実物が紙にとけ込んでいるようで、同じ鉛筆で描いているとは思えなかった。私もあんな風に描いてみたいと思った。

 

「デッサン」とは、一色だけを用いてあるものや人物の輪郭線をとり、かげをつけながら、質感・立体感・色の明暗などを表した作品や技法のこと。「実物が紙にとけ込んでいる」という表現が、場面にあっていてとてもよい。どんな絵なのか、スケッチブックをのぞいてみたくなった。素敵な目標を見つけたM.O.さんの上達を応援している。

マッチーさん

日本で造られた「はやぶさ」という人工衛星が、不具合も、自分で直して、地球と小惑星イトカワを往復した事です。不具合を自分で直させるという日本の技術に、とても素晴らしいと感じました。

 

問題文『あと少し、もう少し』の桝井先輩の描写にひかれてか、〈誰か〉を見て〈圧倒的なもの〉を感じた体験をあげてくれた人が多かった中、マッチーさんは、〈人間以外のもの〉に焦点をあてていた(もちろん、背後には人間の技術力への賛嘆もある)。着眼点がおもしろい。
他にも、科学者sさん「プラナリアの再生能力」だだだ大翔!?さん「自動車工場の溶接ロボット」などの〈人間以外のもの〉を取り上げた回答があった。

A.I.さん

昔のままで現存する姫路城の美しさや大きさ、戦いへの備えに圧倒されました。そして、昔の技術を見直しました

 

こちらも、〈人間以外のもの〉を取り上げた回答。マッチーさんの「はやぶさ」の回答もそうだが、自分の心打たれた〈圧倒的なもの〉を取り上げたうえで、更に〈その背後にあるものは何か〉まで考察している点がおもしろい。表の部分にとどまらず、そのうしろにあるものまで見通そうという視点はとても大切だ。たった二文で構成された文章なのに、深みを感じる。
他にS.I.さんが投稿してくれた「奈良の大仏」を見て「古の人々の大仏に込められた思いが胸に響いた」という回答も背後を見通す視点が優れている。

かーきさん

夏休みにいとこと焼き肉屋にいった時、
「超大盛り焼き肉セット30分以内に食べ切れたら、代金半額だよ!」
という張り紙があった。それにいとこが挑戦すると、なんと18分で食べきった。食欲の失せる食べっぷりだった

 

最後にもう一つ、視点のおもしろさを感じた回答をご紹介。
〈圧倒的なすばらしいもの〉を取り上げた回答が多い中、かーきさんは「圧倒的だけど、あこがれない……」という体験を取り上げてくれた。確かに、〈圧倒的なものかどうか〉と〈それに対して、プラスとマイナスのどちらの感情をいだくか〉は別の問題である。
このように、ある物事に対して考えるときに分け考える視点もとても大切。いろいろな切り口から考えてみると、ものの見方にふくらみが出てくる。

Z会のつぶやき

 

今回は、〈圧倒されたあなたの体験〉を書く課題だったが、こうした「すごい!」と思う気持ちを、人にわかってもらうように書くのはとても難しい。

(1)「すごい!」を伝えるのはなぜ難しい?
第一に、自分と文章を読む人では、生まれ育った環境やものの見方が必ずしも同じではないからだ。だから、〈何が〉〈どのように〉〈なぜ〉すごいのかをうまく説明しないと、読む人にはなかなかわかってもらえない。

第二に、「すごい!」と気持ちが高ぶっているとき、人は自分自身の気持ちを冷静に見つめていない状態にある。「すごい!」「おもしろい!」「好きだ!」と思ったとき、通常はその理由を意識して考えることは少ないのではないだろうか。
それはそれでよいことだと思うのだが、しかし人に説明するときには「すごいからすごい!」だけでは、〈自分ではない人〉〈その「すごい」ことが起きた場に居合わせなかった人〉には共感してもらえない。

(2)読む人を想像して書く
当たり前の話だが、文章は読んでくれる人を考えて書かなければならない。〈自分ではない人〉〈その「すごい」ことが起きた場に居合わせなかった人〉に、状況がわかるか、共感してもらえるかなどを考えながら文章を練ってみてほしい。
今回ご紹介した回答例のように、明確な状況説明、たとえを用いた表現、擬態語などをうまく使うとよいだろう。読む人を自分の世界に巻き込むイメージで書いてみよう!

今回のみなさんの投稿では、〈圧倒的な素晴らしいもの〉に対して、「自分もそうなりたい」という気持ち、「悔しい」という思い、「自分は『井の中の蛙(かわず)』だったと気づいた」という感想を書いてくれた人もたくさんいた。
自分を成長させるには、〈そうなりたい目標〉があることがとても大切だと思う。今はまだ遠くかすかに見えるものでも、目指すものがあってそこに向かうのと、何もあこがれるものがない状態では大きく違う。
千里の道も一歩から! みなさんの努力を応援している。