決まった時刻に早起きする習慣。朝型の生活にしたことで、効率的に勉強が進められるようになった。疲れているときでもいつもの時間になると目が覚めてしまう。
★ほら貝★さん

今回のクリティカル・シンキングは以下のような課題だった。
問題文の内容をふまえて、あなたにとって、「水の流れのように、自然に見えるまで」身についているものを何か一つ挙げ、それが身についたことで「よかった点」「よくなかった点」を、それぞれ一文ずつで書きなさい。
それでは、みなさんが送ってきてくれた回答から、目を引いたものを紹介していこう。
決まった時刻に早起きする習慣。朝型の生活にしたことで、効率的に勉強が進められるようになった。疲れているときでもいつもの時間になると目が覚めてしまう。
ピアノで、ショパンの幻想即興曲を、半分寝た状態でも弾けるようになったことです。発表会では、ほとんどミスをせずに弾くことができました。しかし、その曲を弾けるようになってからは、他のどんな曲でもとても速いスピードでしか弾けなくなってしまいました。
問題文にもあったピアノの習得を事例に取り上げたもの。「半分寝た状態でも弾ける」という表現が、問題文にある「キーの前に座ったら、もう指が動いてしまっている」という段階をうまく表している。右手と左手で異なるリズムを弾くショパンの幻想即興曲は、まさに「水の流れのように」自然に流れていかないと上手に聴こえない。このレベルをクリアしたロマンチストの豚さんは、いまは、むしろゆっくり弾くことの難しさに直面しているのではないだろうか。
身についているもの:そろばんを通して身につけた計算力。よかったこと:計算が頭の中でそろばんの珠の動きでイメージできるようになったこと。よくなかったこと(というほどでもないが):計算をするときに無意識のうちに指先が動いてしまうこと。
損得を考えることを「そろばんをはじく」と言うが、この「そろばんでの計算」も、ピアノと同様に、指先の動きを通した知的作業という文化である。指先の動きは演奏や計算といった知的な作業に結びつくものが多いようだ。例えば漢字を暗記するための指なぞりなどもその一つだろう。
今回も投稿してくれたみなさん、ありがとう。読んでいて楽しいエピソードが多かったが、気になったことがひとつあった。
「クリティカル・シンキング」には正解はないので、基本的には自分が思ったこと、考えたことを自由に述べてもらってかまわない。ただし、与えられた前提や条件はしっかりふまえる必要がある。今回の課題で言えば、与えられた問題文の内容だ。
この問題文で、筆者が「水の流れのように、自然に見えるまで」身につけたものとして述べているのは、「文化」のことである。そして筆者は、「文化」は単なる「習慣」とは異なり、「価値意識」を含んでいる、と説明している。
したがって、「水の流れのように、自然に見えるまで」身につけたものの実例は、たんなる「習慣」ではなく「文化」でなければならない。「習慣」と「文化」の線引きは微妙なので、一見、「習慣」に見える事例があってももちろんよい。ただし、これは「文化」である、ということを自分なりに根拠を示しておくことが必要だ。自分が思いついた事例が問題文で言われている「文化」に相当するかどうか、見直してほしい。
これから入試で作文や小論文を書くこともあるだろう。正解がないそうした問いに答える際は、まず出題者が与えている条件(設問で問われていること)や前提(課題文や資料の内容)を、しっかりふまえて考えよう。
〈効率的に勉強を進める〉という目的=価値意識があるという点で、早起きする習慣が、実は「文化」であることが示されている。実は、こうした「決められた時刻に従って行動して時間を効率的に使う」という現代の日本ではあたり前の考え方は、近代以降に成立した価値観であり文化なのだ。時代や地域が異なると、こうした考え方は必ずしもあたり前ではなくなる。この辺りの話題に興味がある人は、福井憲彦著『時間と習俗の社会史』や真木悠介著『時間の比較社会学』を読んでみてほしい。