クリティカル・シンキング/みんなの意見 7月の回答選と解説

中3
中3 4月(BLT3A1)
『昭和秀句2』からの出題

今回の課題

今回のクリティカル・シンキングは以下のような課題だった。

問題文(秋元不死男『昭和秀句2』の一部)をふまえ、「緊張の一瞬」をテーマに俳句を作ってみましょう。また、表現のうえで工夫した点を二文程度で説明しましょう。

みなさんが送ってきてくれた回答から、目を引いたものを紹介していこう。ちなみに俳句では五・七・五のそれぞれの音の並びを、上五(かみご)・中七(なかしち)・下五(しもご)と呼ぶので覚えておこう。

今回の回答選

笹原スミレさん

〈俳句〉「北風で 身も気も凍る 控え室」
〈工夫した点〉試験での面接で、自分の番を控え室で待っている間に高まる緊張を北風に例えた。また、「身も気も凍る」という言葉で、控え室で待つ人が緊張で体が硬直している状態と、緊張感に満ちた控え室の様子を表した。

 

冷え切った控え室の緊張感がよく表れている。俳句の基本的なルールとして季語があるが、この句には「北風」という冬の季語が用いられていることも模範的。

DAISYアリスさん

〈俳句〉「ガタガタと 足の震える 新学期」
〈工夫した点〉擬態語を用いることで、情景をより想像しやすくしました。また、体言止めにより余韻を持たせました。

 

「新学期」は春の季語。上五にあてた「ガタガタ」という擬音を活かすために説明的な「震える」をあえて外してみては? 例えば中七・下五を「足ガタガタと新学期」にして、緊張を誘う要素を上五にあててみてはどうだろうか。

りりりりったんさん

〈俳句〉「新学期 教室とびら 開けるとき」
〈工夫した点〉 新学期や教室から、新しいクラスになる事をイメージできるようにしました。また、 開けるとき で終わらせる事により、今まさに開ける緊張感が伝わるようにしました。

 

これも「新学期」を詠んだ句。「とびら開ける」という言葉から新しい世界が始まるイメージがわきあがってくる。「教室」「とびら」「開ける」と素直につながりすぎたので、何かここにイメージが膨らむ語句を入れ込むと、より奥行きがでたと思う。

さんちゃんさん

〈俳句〉「踏み入れる 不安と期待の 教室へ」
〈工夫した点〉中学校に入学して、初めての人ばかりの新しいクラスの教室に入るシーンを俳句にしました。期待もあるのですが、不安な気持ちの方が大きいので不安を前に置いたところを工夫しました。

 

りりりりったんさんと同じく、新しい教室に初めて入るときのことを描いた句。前出の句と異なるのは「踏み入れる」と足元を描写した点。「不安と期待」という複雑な感情を足元の描写に絡めることができたら、より魅力的な句になると思う。

モエッキーさん

〈俳句〉「部活動 無音の後で ナイシュー」
〈工夫した点〉僕はバスケ部ですが、3Pシュートを打った後は、しばらく沈黙の時間があり、決まった後に声が聞こえてくるということがあるのでそれを俳句にしました。

 

シュートされたボールが宙を浮いている間の静けさと、ゴールが決まったあとの歓声との対比を描写しようとした意欲作。上五は「部活動」といった状況説明よりも、空中で弧を描くボールの様子などを取りあげたほうがよい。あわせて中七の「無音」も「口開け見つめ」などと描写すれば、沈黙の時間がより生き生きと表現できると思うがどうだろうか。

K.K.さん

〈俳句〉「笛の音が 無音を破る ゴール前」
〈工夫した点〉サッカーのPKで全員に緊張が走り、笛がその静寂の中を響き渡るイメージを出した。また、ゴール前というのでPKをイメージしやすくした。

 

これもモエッキーさんと同じく、誓子のように静寂が破れる瞬間を描こうとした作品。上五の「笛の音」と中七の「無音」とが意味の上で重なっているので、「笛の音」を生かして「無音を破る」を言い換えるか、「無音を破る」を生かして「笛の音」を言い換えるかするとよりよくなるだろう。

Kazuki U.さん

〈俳句〉「ピストルと 心拍数が 上がってく」
〈工夫した点〉ピストルが高く持ち上がるにつれて、スタートに近づくにつれて、心の緊張も増していくという意味。

 

スタートを待つじりじりとした緊張感が描かれていて秀逸。「上がってく」という表現がこなれていないのが惜しい。「ピストルと同時に上がる心拍数」と語順をかえたほうがよいと思うがどうだろうか。

風弥さん

〈俳句〉「四時間目 お腹鳴り出す 腹の虫」
〈工夫した点〉授業中、お腹が鳴りそうになる緊張感を表しました。

 

お腹が鳴ってしまうことを我慢する緊張を描いたユーモラスな句。中七の「お腹」と下五の「腹の虫」が重なっているという意味でも、「お腹鳴り出す」をもうひとひねりするとより面白さがでるはず。緊張感を表現するのに、上五は教室の静けさをイメージさせる言葉でもよいだろう。

Z会のつぶやき

 

課題文にある誓子の句にならって「緊張の一瞬」を描いた俳句を詠んでみることが、今回の課題であった。クリティカル(批評的)・シンキングというよりも、クリエイティブ(創造的)・シンキングだったと思う。
みなさんの自作解説を読むと、「緊張の一瞬」として詠みたい情景や感情がとてもはっきりしていてさすがだと思った。あとは、それをどのように17文字に移し変えていくかである。以下、考え方のコツをあげておこう。

【言葉を絞り込む】
個別のコメントでも繰り返したように、描きたい出来事・感情を表現するためにはムダな字数は一切ない。17文字という限られた字数を最大限利用するために、重複する内容や言い換えを省こう。
【ストレートな感情表現をしない】
「悲しい」「嬉しい」「楽しい」といった気持ち・感情を、それ以外の言葉に託そう。おそらく、みなさんがもっとも表現したいのは、そうした自分の気持ち・感情だろうが、それをあえてNGワードにしてみることで、表現の幅がひろがるはずだ。
【説明しすぎない】
「いつ」「どこで」「だれが」といった状況説明や、「なぜなら」「どのように」といった理由や具体的方法をすべて説明しようと思わないこと。わかりやすく丁寧に説明することを目指す作文や、自分の主張や根拠を明確に述べる小論文、簡潔に筆者の気持ちをまとめる記述問題が得意な人たちには、ここがいちばん難しいと感じるかもしれない。
「それだけでは自分の言いたいことが伝わらない」と思う人は、言葉そのものがもつイメージの力を借りてみることを考えよう。俳句が「季語」を大切にするのは、その言葉によってイメージが大きく広がるからだ。論理的・説明的ではない、言葉そのものがもつイメージの広がりを楽しんでほしい。

今回の課題をきっかけに俳句に興味がわいたのであれば、ぜひ季語を解説した「歳時記」を手にしてほしい。そして、季語のイメージを頭の中に広げながら、これまで詠まれてきた俳句に触れてみよう。

今回、俳句を作るという課題にみなさんも楽しんで取り組んでもらえたのではないだろうか。感じたこと、思ったことを通して自分を表現する楽しさを、次回以降の「クリティカル・シンキング」でもぜひ生かしてほしい。担当者をうならせる投稿を待っている。